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第二十四話「悪夢の真意」



深夜、メルベルは再び悪夢に襲われていた。


夢の中で、彼はアザリアの手を引いて懸命に逃げていた。背後には得体の知れない邪悪な気配が迫り、二人は必死に走り続けている。


アザリアが泣いていた。涙を流しながら、それでも彼の手を離すまいと必死に食らいついてくる。


「メルベル、お願い、置いていかないで」


彼女の声は震えていた。


そして、ついにそれが現れた。微睡の魔王。甘ったるい腐敗の香りと共に、全てを飲み込む闇のような存在。現実と夢の境界を曖昧にし、人々を永遠の眠りに誘う恐ろしい力。


夢の中で、メルベルは剣を抜いて立ち向かおうとした。しかし、なぜか自分の体が動かない。そして気づくと、自分は魔王の側に立っていた。


「なぜだ」


夢の中で叫んだその時、メルベルは目を覚ました。


全身が冷や汗にまみれている。呼吸は荒く、心臓が激しく鼓動していた。


(また、あの夢か)


メルベルは起き上がり、枕元の水を飲んだ。ここ数ヶ月見続けている悪夢だが、今回は以前よりもはるかに鮮明だった。


そして、ようやく一つのことに気づいた。


(アザリアが、関わっている)


これまでの悪夢を思い返してみると、微睡の魔王の周囲には常にアザリアの気配があった。夢の中で彼女と自分はかなり信頼し合う仲になっているようだったが、最終的には何かが起こり、魔王が復活してしまう。


アザリアの能力について考えてみる。彼女が成し遂げた浄化作業は、話で聞く限り普通の巫女が数ヶ月かかるような仕事を一、二日で終わらせるものだった。明らかに、彼女は凄まじい才能の持ち主である。


(若い異能の持ち主ということか)


そのような存在なら、確かにアンデッドたちの標的になるだろう。蓄えた聖火を奪われ、その結果として魔王が復活する。そんなシナリオが考えられる。


しかし、なぜ夢の中で自分は魔王の手下になっているのか。その意味が全くわからない。


(彼女を守りきれなかった結果なのか)


メルベルはそう結論づけた。自分が護衛としての責任を果たせず、彼女が危険にさらされた結果、魔王復活という最悪の事態に至る。そして、その過程で自分も何かしらの形で魔王の影響下に置かれてしまう。


(昨日は、不躾な態度を取ってしまった)


メルベルは反省していた。神殿戦士に対して攻撃的すぎたし、アザリアの注意も聞かなかった。あれでは、信頼関係を築くどころか、溝を深めただけだろう。


しかし、よく考えてみれば、アザリアと出会ってから自分の状況は改善している。戦士としての活躍の場を得て、あの嫌いな神殿戦士の前で大きな顔をする機会も得ている。


(彼女には、いい人であるべきだ)


メルベルは決心した。夢の内容が現実になるかどうかは分からないが、少なくとも彼女との関係を改善する必要がある。


---


翌朝、メルベルは神殿に向かった。


アザリアがそろそろ出立の準備をしているはずである。昨夜の悪夢もあり、彼女の様子を確認しておきたかった。


神殿に着くと、中からアザリアの声が聞こえてきた。どうやら神殿関係者たちと何かを話し合っているようである。


メルベルは目立たない場所に身を隠し、こっそりと様子を伺うことにした。


「アザリア様、馬の手配をいたしましょうか?」


職員の声が聞こえる。


「ご親切にありがとうございます。でも、伝統的に聖地巡礼は徒歩で行うものですから」


アザリアの丁寧な返答が続く。


「それでは、神殿戦士の帯同はいかがでしょう?十分な人数を用意できますが」


神殿長らしい声がした。


「ありがとうございます。でも、私には勿体ないお申し出です」


アザリアはやんわりと断った。先日の一件が影響しているのだろう。神殿戦士の限界を目の当たりにした彼女は、形式的な護衛よりも実質的な戦力を重視するようになったのかもしれない。


「そうですか。それでは、補給物資だけでも」


「それはありがたくお受けします」


メルベルは隠れながら、アザリアの判断に感心していた。彼女は確実に成長している。表面的な体裁よりも、実際の安全を優先するようになった。


(やはり、彼女は賢い)


そして同時に、自分への信頼を示してくれているのだとも感じた。神殿戦士を断るということは、自分との契約を継続するということに他ならない。

ちょっとした ずっと忘れていた自分への嫌悪が薄れていく感じがした。

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