第二十話「技術の限界」
沼地に近づくにつれて、アザリアの頭の中では様々な考えが巡っていた。
アンデッドとの戦いは、長い間法力使いたちによる訓練で成り立ってきた。生命エネルギーを秘めた攻撃でアンデッドを行動不能にし、その後に巫女がその場を浄化する。この才能は極めて稀有だったため、人員の供給はできず、二人一組という形が続いてきたのである。
しかし、昨今の技術革新により状況は一変した。巫女の奇跡に関してはともかく、戦士たちの戦いは大きく変わったのだ。
法石銃の登場により、アンデッドに対する防衛は法力の才能に乏しくても可能になった。一般人でも十分な攻撃力を持てるようになり、法力使いは従来のような古風な戦いをする必要がなくなった。その結果、一般人との区別も曖昧になっていった。
(でも、それは数が多ければの話よね)
アザリアは考えていた。
確かに、神殿戦士が大勢いれば、法石銃の集中砲火でアンデッドを制圧できるだろう。しかし、個人的な戦闘力に限って言えば、法力使いの扱いはやはり超人的と言わざるを得ない。
メルベルの戦いを思い出してみる。あの炎を纏った剣の一撃で、アンデッドは跡形もなく消し飛んだ。一方、神殿戦士は何発もの銃弾を撃ち込んで、ようやく一体を倒していた。
(もし、昨日のあのヘドロの化け物が現れたら)
大型でなくても、小型の環境汚染系アンデッドが出てきたら、この若い神殿戦士が対応できるのだろうか。アザリアには、かなり怪しい気がしてきた。
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現場に到着すると、予想通りアンデッドが散見された。昨日ほどの数ではないが、沼地の各所から腐敗系のアンデッドがのろのろと立ち上がってくる。
「お下がりください」
神殿戦士が法石銃を構えた。遠方からアンデッドを狙い撃ちする作戦である。
パン、パン、パンと銃声が響く。
しかし、いまいち決め切らない。弾丸はアンデッドに命中しているが、完全に破壊するまでに時間がかかっている。
「光の術で援護します」
アザリアも力を使って補助した。アンデッドの動きを止める光の術を放ち、神殿戦士の射撃を助ける。
それでも、アンデッドたちは少しずつ、じわじわと近づいてきていた。
「もう少し、集中して撃ってください」
アザリアが声をかけたが、神殿戦士の表情には焦りが見え始めている。
(やはり、思った通りだった)
アザリアの不安が現実のものとなってきた。法石銃は確かに有効だが、熟練した法力使いの技量には及ばない。特に、複数の敵を相手にする場合、その差は歴然としていた。
「あと三体、いえ四体います」
職員が震え声で報告した。
神殿戦士は必死に銃を撃ち続けているが、弾薬の消費も激しく、命中精度も落ちてきている。
アザリアは光の術を連続で使用しているため、既に疲労を感じ始めていた。このままでは、全てのアンデッドを処理する前に、自分の力が尽きてしまうかもしれない。
(メルベルなら、こんな状況にはならなかった)
心の奥で、そんな考えが浮かんだ。彼の炎の剣なら、これらのアンデッドなど一瞬で片付けてしまっただろう。
「アザリア様、大丈夫ですか?」
神殿戦士が心配そうに声をかけてきた。彼自身も、状況の深刻さを理解し始めている。
「ええ、なんとか」
アザリアは答えたが、内心では不安が募っていた。
技術の進歩が、必ずしも個人の能力向上を意味するわけではない。そのことを、アザリアは身をもって学んでいた。
沼地の向こうから、新たなアンデッドの影が立ち上がってくるのが見えた。




