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第十八話「夢の警告」



神殿の宿坊で目を覚ましたアザリアは、久しぶりに爽やかな朝を迎えていた。


上質な寝具に包まれた体には疲労感もなく、窓から差し込む朝日が部屋を暖かく照らしている。何よりも素晴らしいのは、職員たちの慇懃な態度だった。


「おはようございます、アザリア様」


若い職員が丁寧にお辞儀をしながら声をかけてくる。まるで、かつて父の屋敷で受けていたような、尊敬に満ちた眼差しである。


(ああ、これよ)


アザリアは心の中で満足していた。昨日の成功により、自分への評価が一変したことを実感する。やはり、実績を上げれば人は変わるものなのだ。


身支度を整えていると、職員が重要な報告を持ってきた。


「本日は、こちらに滞在しております神殿戦士と職員も同行させていただきます」


「そうですか」


アザリアは少し考えた。昨日の戦闘で大元のアンデッドは倒したし、今日は主に浄化作業が中心になるだろう。メルベルは激しい戦いの後で疲れているはずだ。


「メルベルには、そのまま休んでいてもらいましょう」


アザリアは決断した。


「宿にいる彼に、今日はゆっくり休んでいて欲しいと伝えてください」


職員は頷いて、伝令の手配を始めた。


アザリアにとって、これは思いやりのつもりだった。同時に、神殿戦士たちの前で異教の戦士であるメルベルを連れ歩くことの微妙さも、頭の片隅にはあった。


(今日は私一人で十分やれるでしょう)


昨日の成功体験が、アザリアに自信を与えていた。


---


その頃、安宿でメルベルは深い眠りの中にいた。


夢の中で、彼は再びあの忌まわしい光景を見ていた。しかし、今回の夢は以前のものとは異なっていた。


沼地の中で、アザリアが必死に足掻いている。黒い泥に足を取られ、何かから逃れようとしているが、その足は泥に深く沈み込んでいく。彼女の顔には恐怖が浮かび、助けを求めるように手を伸ばしている。


そして、その周囲には微睡の魔王の気配が漂っていた。甘ったるい腐敗の香りと、現実を侵食する夢の力。


「だめだ」


メルベルはハッと目を覚ました。額に冷や汗が浮いている。


(また、夢を見た)


ここしばらく見ていなかった予知夢が、再び現れたのだ。しかも、今度はアザリアが危険にさらされている内容だった。


メルベルは慌てて身支度を始めた。闇の戦士の血統として、夢の内容を軽視することはできない。


そこに、神殿からの使いが現れた。


「アザリア様からの伝言です。今日はゆっくりお休みくださいとのことです」


「休め?」


メルベルは手を止めた。


「はい。昨日お疲れでしょうし、今日は神殿戦士も同行いたしますので」


メルベルは一瞬、安堵しかけた。確かに、昨日の戦闘は疲れたし、神殿戦士がいるなら安全だろう。


しかし、夢の内容が頭をよぎる。


(あの夢は何だったのか)


アザリアが沼地で足掻いていた光景。あれは単なる夢なのか、それとも予知なのか。


闇の戦士の習慣として、夢の内容は重要な意味を持つ。特に、具体的な人物と場所が示された夢は、無視すべきではない。


(だが、神殿戦士がいるのなら)


メルベルは迷った。自分が行ったところで、正式な神殿戦士の邪魔になるだけかもしれない。


しかし、夢の中のアザリアの恐怖に満ちた表情が脳裏に焼き付いている。


(行くべきか、行かざるべきか)


数分間の逡巡の後、メルベルは決断した。


「分かった。だが、念のため様子を見に行く」


「え、でも」


「心配になったんだ」


メルベルは剣を腰に帯びた。


「俺の仕事は護衛だからな」


使いの者は困ったような顔をしたが、メルベルの決意は固かった。


急いで支度を整え、宿を出る。沼地への道のりを急ぎ足で向かいながら、メルベルは心の中で呟いていた。


(杞憂であってくれればいいが)



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