第十七話「帰路の賞賛」
夕日が沈みかけた頃、二人は沼地での作業を終えて街への帰路についた。
アザリアは少しおどおどしながら歩いている。先ほどのメルベルの堂々とした戦いぶりを思い出すと、自分がいかに情けないかが身に染みて、彼の前で堂々と振る舞うのが気恥ずかしくなってしまう。
一方のメルベルは、心境に微妙な変化が生じていた。
(あの女に、いい戦士だと思われた方が得だろう)
アザリアの巫女としての実力を目の当たりにして、彼女との関係をもう少し良好に保っておく価値があると考えを改めたのである。いずれ名誉ある死を遂げる時、彼女に良い印象を残しておけば、より美しい形で語り継がれるかもしれない。
「前に比べると、ずっと浄化の力が強くなったんじゃないか」
メルベルが珍しく、お世辞とも取れる言葉を口にした。彼らしくもない愛想の良さである。
「本当ですか」
アザリアは目を輝かせた。彼女の素直さは相変わらずで、そのお世辞を馬鹿正直に受け取って喜んでいる。
「ええ、最初に比べれば格段に上達している」
メルベルは内心で苦笑いしながらも、彼女の嬉しそうな表情を見て悪い気はしなかった。
「やはり実戦経験が積み重なっているのでしょうね」
アザリアは得意げに答えた。萎縮していた気分が、少しだけ和らいでいる。
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街の神殿に戻ってきた時、受付の女性は二人の無事な帰還に心底驚いた様子だった。
「お帰りなさいませ。本当に、御無事で」
彼女の声には、明らかな安堵が込められている。内心では、二人とも戻ってこないのではないかと心配していたのだろう。
「はい。任務は成功いたしました」
アザリアは胸を張って答えた。かなりのドヤ顔で、「これしきのこと」とでも言いたげな表情である。
「まあ、それは」
受付の女性は慌てて奥に向かって声をかけた。
「皆さん、こちらに」
すぐに数人の職員が現れ、一同で深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。本当に、感謝の言葉もございません」
アザリアは満足げにその感謝を受け取りながら、続けて言った。
「まだ浄化は完全ではありませんが、アンデッドは戦士が倒しました」
彼女はメルベルの方を振り返った。
「明日また向かいますので、その時は同伴をお願いしたいのです。それと、今日の宿の準備をお願いします」
「はい、すぐに手配いたします」
職員たちは慌てて準備を始めた。神殿の宿坊は、一般の宿屋よりもはるかに上質である。
しかし、メルベルは若干奇妙な顔をした。
「俺は前の宿がいい。あそこの方がいい」
彼の声には、微かに拗ねたような響きがあった。
メルベルにとって、神殿という場所は決して快いものではない。異教の戦士として、常に白い目で見られる場所である。昨日の報酬の件でも感じた、あの微妙な疎外感を再び味わいたくはなかった。
「そんなよく分からないことを言わないで」
アザリアは呆れたような口調で答えた。
「いいベッドで寝たらどうですか?せっかく神殿が用意してくださるのに」
彼女には、メルベルの心境など理解できない。上質な宿坊を断って、わざわざ場末の安宿を選ぶ理由が分からないのだ。
「俺はあの宿で十分だ」
メルベルは頑なに答えた。
「変わった人ですね」
アザリアは肩をすくめた。
「それなら、お好きにどうぞ。私は神殿でお世話になります」
職員の一人が申し出た。
「戦士様にも、もしよろしければ」
「いや、結構だ」
メルベルは即座に断った。
「では、明日の朝、こちらでお待ちしております」
アザリアが取りまとめるように言うと、メルベルは無言で頷いた。
その夜、アザリアは久しぶりに上質なベッドで眠ることになった。神殿の宿坊は清潔で、食事も申し分ない。
一方のメルベルは、いつもの安宿で一人、今日の出来事を振り返っていた。
(あの女、案外やるじゃないか)
そして、自分の最期について、以前よりも具体的に想像していた。




