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第百十五話「王の決闘」



城の石造りの大広間で、メルベルは息を荒げながら剣を振るい続けていた。既に数十体のルカヴィを斬り倒しているが、まだ敵は後から後から現れてくる。古式契約による力の増幅があるとはいえ、さすがに疲労が蓄積し始めていた。


「くそっ...」


額から汗が滴り落ち、剣を握る手にも微かな震えが見える。だが、メルベルに後先のことを考える余裕はなかった。ただひたすら戦い続け、アザリアが脱出するための時間を稼ぐ。それだけが彼の使命だった。


その様子を、玉座の間からギシュガルが苛立ちながら眺めていた。


「神殿戦士どもは何をやっている...」


城の外では確かに戦闘が続いているが、どれも小競り合いに過ぎない。このままでは、せっかく現れた強力な戦士が数の暴力に押し潰されてしまう。


「興醒めだ。何百というルカヴィがあの戦士一人に殺到している。このまま潰されてはたまらん」


ギシュガルの中で、久しぶりに焦燥感が芽生えていた。何百年も待ち続けた、自分を倒してくれるかもしれない戦士。その可能性を、雑兵どもの物量で潰されるなど耐え難い。


「下がれ」


ギシュガルの声が城全体に響き渡った。絶対的な威圧感を込めた王の命令に、ルカヴィたちは一斉に戦いの手を止める。


「俺がやる」


重い足音を響かせながら、ギシュガルは大広間に現れた。その巨大な体躯は天井に届きそうなほど高く、漆黒の甲冑が月光を不気味に反射している。腰に下げた大剣は、メルベルの身長ほどもある巨大なものだった。


「ヴェクターとの戦いに続いて連戦で悪いが、この俺と尋常に勝負しろ」


メルベルは目の前に現れた異形の存在に、思わず息を呑んだ。身長は三メートルを超え、その風貌はもはや人間のそれではない。正直なところ、周りをルカヴィに囲まれている現状では、どのみち生きて帰ることは不可能に思えた。


ギシュガルは大剣を地面に突き立てると、古い作法に従って名乗りを上げた。


「我が名はギシュガル・カーカラシカ。父はガラン・カーカラシカ。闇の戦士一族の末裔なり。いざ、尋常に勝負!」


メルベルは一瞬、耳を疑った。この化け物じみた存在が、まさか自分と同じ血筋だというのか。


「これは皮肉なことだ。こんな化け物にそんな立派な名乗りをされるとは」


メルベルも短刀を地面に突き立て、決闘の作法に従った。


「ガレスの息子、メルベル・ボム。鉄嵐流を修めし者なり。お受けいたそう」


二人の戦士が武器を地面に突き立てて向き合う。決闘のマナーに従い、互いに一礼を交わした。周囲のルカヴィたちも静寂を保ち、この歴史的な一騎打ちを見守っている。


「ガレスの息子か...」


ギシュガルの声に、微かな感慨が込められた。


「あの男は良い戦士だった。惜しいところまで行ったが、俺を殺すには至らなかった。お前はどうだろうな」


「父を知っているのか」


「ああ。俺たちは同じ血筋だからな」



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