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第百十三話「勝者の栄光」



二人の戦士が構えを取った瞬間、戦場に不思議な変化が起こった。激しく交戦していた両軍の兵士たちが、暗黙の了解で戦いの手を止めたのだ。これは戦場の古い慣習だった。名のある戦士同士の一騎打ちが始まる時、他の者は手出しをせず、その行方を見守るのが武士の道とされている。


神殿戦士たちは松明を掲げて右側に、ルカヴィとその配下たちは左側に整列し、自然と円形の人垣が形成された。月光と炎の光が交錯する中、即席の闘技場が出来上がる。


「おおおお!」


神殿戦士たちが足を踏み鳴らし、猛々しい雄叫びを上げる。


「うおおおお!」


ルカヴィ陣営も負けじと足音を響かせながら、野獣のような咆哮で応じた。両陣営から激しい歓声と掛け声が上がった。戦場の緊張感が、一瞬にして格闘試合のような熱気に変わる。


ヴェクターが鉄杖を大上段に振りかぶって突進してきた。その一撃は石畳を砕くほどの威力を持っているが、メルベルは紙一重でかわしながら短刀で反撃する。


「はあああ!」


メルベルの刃に炎の法力が宿り、美しい軌跡を描いて空を切る。ヴェクターは慌てて鉄杖で受け止めるが、その衝撃に腕が痺れた。


「なんという力だ...!」


二人の技の応酬が続く。ヴェクターの鉄杖が唸りを上げて振り回されるたび、風圧で周囲の砂埃が舞い上がる。だが、メルベルの動きは今までとは明らかに違っていた。


体の奥底から湧き上がってくる、今まで感じたことのないエネルギー。古式契約によってアザリアの聖火の力を共有しているため、メルベルの身体能力は飛躍的に向上していた。


「くそっ...神殿戦士にこんな手だれがいたとは!」


ヴェクターは必死に応戦するが、次第にメルベルの攻撃に押され始めていた。炎を纏った短刀が、彼の僧衣を焦がし、肌に浅い傷を刻んでいく。


「これで終わりだ!」


メルベルは鉄嵐流の奥義を発動した。瞬間的に三方向から同時に斬りかかる幻影剣技。ヴェクターは必死に鉄杖で防御しようとしたが、一撃だけ防ぎきれず、脇腹に深い傷を負った。


「がはっ...!」


血を吐きながらヴェクターは膝をついた。もはや立ち上がる力も残されていない。


「まさか...こんなところで負けるとは」


ヴェクターは苦々しい表情を浮かべながら、メルベルを見上げた。


「見事だった。戦士として、これ以上ない死に様を見せてもらった」


そして、首を前に差し出しながら言った。


「俺の首級で手柄を立てろ。それが敗者の務めだ」


メルベルは短刀を構え直し、静かに頷いた。


「戦場の習い。ありがたく頂戴いたす」


一閃。ヴェクターの首が胴体から離れ、石畳に転がった。周囲から沈黙が広がる。勝負あり、だった。


「ヴェクター様が...」


「指揮官が討ち取られた!」


ルカヴィたちに動揺が走るが、一体が鋭い声を上げた。


「まだ数的優位はあるぞ!全軍、神殿戦士どもを蹴散らせ!」


戦闘が再開された。メルベルは近くにいた神殿戦士にヴェクターの首を手渡すと、再び短刀を構えた。


「これを大将首として献上せよ」


「は、ははっ!ありがたき幸せ!」


若い神殿戦士は感激で震え声になっている。大将首は武功の最高位。それを譲り受けるなど、夢にも思わなかっただろう。


「では、俺は先に行く」


メルベルは残るルカヴィたちに向かって駆け出した。今度の目標は城の内部だ。アザリアが待っている場所へ、一刻も早く辿り着かなければならない。


「待て、貴様!名を名乗れ!」


神殿戦士が叫んだが、メルベルの姿は既に城門の中に消えていた。炎を纏った短刀が闇を切り裂き、敵を薙ぎ倒しながら進んでいく。


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