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第百十二話「乱戦の一騎打ち」



城の正面に広がる石造りの広場は、まさに戦場と化していた。メルベルが夢で見た光景そのものが目の前に広がっている。神殿戦士の銀甲が月光に煌めき、ルカヴィたちの暗黒のオーラが不気味に揺らめく中、激しい戦闘が繰り広げられていた。


剣と剣がぶつかり合う金属音、怒号と悲鳴、そして倒れた者たちの呻き声が夜空に響いている。神殿戦士たちは勇敢に戦っているものの、ルカヴィの超常的な力の前に次第に押し込まれつつあった。


「そこまでだ!」


メルベルは馬から飛び降りると、戦場の中央に向かって駆け出した。短刀を抜き放ち、最も近くにいたルカヴィの背後に回り込む。


「がはっ...!」


不意を突かれたルカヴィが血を吐いて倒れ伏した。メルベルの突然の参戦に、神殿戦士たちの士気が一気に上がる。


「謎の援軍だ!」


「押し返せ!今が好機だ!」


戦況が一変した。メルベルの鉄嵐流の剣技が炸裂し、次々とルカヴィたちを薙ぎ倒していく。神殿戦士たちも彼の動きに合わせて攻勢に転じ、敵陣を押し返し始めた。


その時、ルカヴィ軍の後方から重厚な足音が響いてきた。現れたのは、筋骨隆々とした大柄な男だった。僧衣を身に纏いながらも、その腕には戦闘で鍛え上げられた筋肉が盛り上がっている。手には巨大な鉄杖を握り、その眼光は野獣のように鋭かった。


「何をやっている!たかが一人の乱入者に遅れを取るとは!」


男—ヴェクターは憤怒の声を上げながら前線に躍り出た。鉄杖を振り回すと、神殿戦士たちが次々と吹き飛ばされていく。一撃で盾を砕き、鎧を凹ませる圧倒的な破壊力だった。


「うわあああ!」


「化け物だ...!」


神殿戦士たちが再び後退を始める。ヴェクターの登場により、戦況は再び膠着状態に陥った。


メルベルとヴェクターの視線が交差した瞬間、互いの実力を測り合う静寂が戦場に訪れた。周囲の喧騒が一瞬遠のく。


「ほう...」ヴェクターが興味深そうに呟いた。「そこの剣士よ、お前は只者ではないな」


鉄杖を地面に突き立て、ヴェクターは堂々と名乗りを上げた。


「我が名はヴェクター・シャドウハンド!かつては神殿で修行を積み、今は力の極致を求める者!」


その声は戦場全体に響き渡り、両軍の兵士たちが一斉に戦いの手を止めた。


「名のある戦士と見受ける。この乱戦の中で愚かしく死ぬよりも、潔く俺と戦え!一騎打ちで雌雄を決しようではないか!」


ヴェクターの挑戦に、メルベルは短刀を構え直した。


「ガレスの息子、メルベル・ボム。鉄嵐流を修めし者なり」


「是非もなし」


メルベルの答えは短く、しかし決意に満ちていた。運命がこの瞬間を用意していたのなら、それに従うまでだった。


戦場の中央に円形の空間が自然と生まれる。神殿戦士もルカヴィも、この一騎打ちの行方を固唾を呑んで見守っていた。


月光が二人の戦士を照らし出す。一人は神への信仰を捨てて力を求めた堕落した修行僧。もう一人は愛する人のために己の命を賭ける誇り高き戦士。


鉄杖と短刀。異なる武器、異なる道を歩んだ二人の戦士が、運命の瞬間に向き合っていた。


「では...始めようか」


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