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第百話「怒りの鉄槌」



アジョラの錫杖が、炎のような法力を纏って宙を切り裂いた。


「ガレスを侮辱するなああああ!」


怒りに震える声と共に、錫杖が石畳に叩きつけられる。爆音と共に地面が砕け散り、破片が四方に飛び散った。


ライラとダミアンは、その凄まじい怒気に圧倒されながらも、持ち前の連携で対抗しようとした。


「ダミアン、左から!」


「分かった、ライラ!」


二人は阿吽の呼吸で、アジョラを挟み撃ちにしようと動いた。しかし—


「させるか!」


メルベルの剣が、ダミアンの進路を阻んだ。鋼と鋼がぶつかり合う金属音が響く。


「邪魔をするな!」


「お前たちのコンビネーションなど、俺が潰してやる!」


メルベルはダミアンと激しく切り結びながら、アジョラが孤立しないよう立ち回った。


その時、アジョラの視界にメルベルの戦う姿が映り込んだ。


剣を振るう姿勢、敵を見据える鋭い眼光、敵の攻撃を受け流す身のこなし—


(ガレス...?)


一瞬、時間が逆行したような錯覚に襲われた。メルベルの姿が、愛する夫の影と重なって見える。


あの頃の自分たち。若く、情熱的で、何も恐れることなく冒険に身を投じていた日々。背中を預け合い、息を合わせて戦った無数の戦場—


「ガレス...一緒に戦いましょう...!」


その錯覚が、アジョラの内なる力を解放した。


七つの聖火のエネルギーが、彼女の全身を駆け巡る。しかし、それは清らかな聖なる光ではなかった。怒りと哀しみに染まった、ギラついた炎のような荒々しい力だった。


「うおおおおお!」


アジョラは野獣のような雄叫びを上げて、ライラに向かって突進した。錫杖を頭上に振り上げ、その全体重を込めて振り下ろす。


「きゃあああ!」


ライラは慌てて法力の障壁を展開したが、アジョラの怪力の前には紙同然だった。錫杖が障壁を粉砕し、ライラの頭部に直撃する。


「がああああ!」


ライラは悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。美しい金髪が血に染まり、額から血が流れ出している。


「ダミアン!助けて!」


ライラの必死の叫び声が響いた。


「ライラ!」


ダミアンは愛する人の危機に、メルベルとの戦いを放棄してライラの元に駆けようとした。しかし—


「行かせん!」


メルベルは腰の短刀を素早く抜くと、全力で投擲した。刃が空気を切り裂き、ダミアンの背中に深々と突き刺さる。


「ぐあっ!」


ダミアンは前のめりに倒れ込んだ。背中に刺さった短刀から、夥しい血が流れ出している。


「ダミアン!ダミアン!」


ライラが愛する人の名を叫んだが、ダミアンはもう動かない。完全に息絶えていた。


「いやああああ!ダミアン!」


「うるさい!」


アジョラは再び錫杖を振り上げた。ライラの頭上に、容赦なく叩きつける。


「がっ!」


「まだ死なないのか!」


アジョラの錫杖が、二度、三度とライラの頭に振り下ろされた。


「やめて!お願い!もう降参するから!」


ライラは涙と血にまみれながら命乞いをした。しかし、アジョラの耳には届かない。


「ガレスを侮辱した報いだ!」


四度目の打撃。五度目の打撃。ライラの悲鳴がだんだん弱くなっていく。


「お願い...もう...」


「死ね!死ね!死ね!」


アジョラは錫杖を振り続けた。ライラの美しい顔が、血と砕けた骨で原形を留めなくなるまで。


最後の一撃で、ライラは完全に沈黙した。


「ふう...ふう...」


アジョラは荒い息を吐きながら、血まみれの錫杖を見つめた。


「ガレス...仇は討ちました...」


その時、廃村の各所から勝鬨の声が上がった。


「ルカヴィが倒れたぞ!」


「アンデッドどもが怯んでいる!」


「今だ、一気に掃討しろ!」


指揮系統を失ったアンデッドたちは、たちまち劣勢に転じた。神殿戦士たちが、次々とアンデッドを撃破していく。


メルベルはアジョラの側に歩み寄った。


「お疲れ様でした、アジョラ様」


「ええ...スッキリしました」


アジョラは血まみれの錫杖を振って、血飛沫を払い落とした。


「夫を侮辱する輩は、容赦しません」


その表情には、普段の温和さは微塵もなかった。愛する人のためなら、どこまでも残酷になれる女の顔だ。

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