The show must go on-08-
08
(1・1・2・3・5・8・13…)
シュティはいらだちを押さえる為に数を数えていた。
フィボナッチ数列である。
この数列であることに意味はない、何でも良かったのだ、素数だろうが、二進数だろうが、一瞬でも頭のなかで変換をする作業のものだったらなんでも良かった。
が、それほど功を奏してもいなかった。
怒りに固執することは愚かだ。それは理解している。しかし…。
「ムカつく! あのプロデューサー!」
声に出してシュティは、トイレの洗面の水でばしゃばしゃと顔を洗った。
最初にマネージャーから打ち合わせの話を聞いた時に断れば良かったとシュティは思った。
内容は決まっていない、撮影スケジュールは迫っている、そんな状態で、シュティを呼んで、アイディアを出せ、意見が聞きたいと言って来た。
せめて、完結している台本か、いくつか案があるならば、それを一枚にまとめた企画書を持ってこいといいたい。
それもない、あれもない、シュティくんはどう思うか?
何も意見はない。
じゃぁ、提案があるか?
こんな感じのいかがでしょう?
それは子供に分かるかなぁ? 君は高い所から物を見てるね。
じゃぁ、これはどうでしょう?
それはちょっとありきたりだね、天才君も意外と平凡なんだね。
じゃぁ、ボクは不要なようなので、帰りましょうか? それとも、何かお手伝いでもしましょうか、今日の会議は何をどこまで決めるのでしょうか?
今日は、そうだね、適当に。
…………………………………。
日本人は、礼儀と段取りと季節を愛する国民性があると思っていましたが、違ったようです、兄さん。
そこまで、一気に思い返すと、一度ため息をつき、トイレのドアを開けて外へ出た。
「あ、シュティ」
多喜と目があった。トイレのドアの目の前に居たのでシュティはびっくりしてしまい無言で見上げる。
彼は、どうも起き抜けをつれてこられたらしく、茶色の柔らかそうな髪が少し重力に逆らっている。来ている服も、いつも通りの服装だ。
「はい、これ、渡そうと思って」
目の前に、一冊の文庫本が差し出された。
薄いオレンジの紙に「天文対話」と、表紙に感じで印刷されている。
シュティが日本語で是非本で見たいと思っていた本だ。絶版になったと聞いていたが、やはり多喜のとこにはあったようだ。
「ありがとうございます!」
シュティはちょっとうれしくなって、笑顔で答えた。
「じゃ、いくぞー。忘れものないな?」
頭の上の方で、君影の声が聞こえた。
「はーい、何も持って来ていません」
シュティは答えて、歩きだした。