The show must go on-07-
07
目の前に現れた少年、シュティはニコニコと笑っていた。
瞳以外は。
「シュティ、一体何でそんなに…」
怒っているんだ? 君影が最後まで言い終わらないうちに、シュティがお手洗いに行ってきます、と言って三人の前を通り過ぎた。
シュティがトイレへ消えた後、また、目の前の角から大柄な中年男性がきょろきょろと何かを捜すような表情でこちらへ向かって来た。
見たことのない顔だな、と君影は思った。
「あ、おはようございます、シュティくんはこっちに来た?」
その人は言いながら歩きながら頭を下げた。
つられて三人も、おはようございます、と頭を下げる。
「お手洗いに行きましたよ」
「そうですか」
自分たちが三人ずらっと並んでいるせいなのか、居心地が悪そうにその男性は頭を掻くと愛想笑いを浮かべた。
「聞いていたんだろ? 済まないね、怒らせてしまったようだね。彼は、プライドが高いね」
はははっとその人は乾いた笑いを後に続かせた。
実を言うと、最初のシュテイの一言以外は全く聞いていなかった。
「さぁ、あまり聞こえませんでしたよー、オレたち今来たところなんですよね。すいませんね、プライドが高いのも商売のうちなんで」
「そうなんだ? まぁ、あんまり若いうちから甘やかすような環境に置いちゃいかんよ」
諭すような、それでいて上から目線の大人風を吹かすような言い方だと感じた。
意外にも、多喜が一瞬空気を変えたのを君影は察した。
相手の男性のいい分に不服があるということらしい。
「まぁまぁまぁまぁ、制作側も大変ですよねー、上の許可をとらなきゃいけない、タレントのご機嫌取りもしなきゃいけない、視聴率もとらなきゃいけないでホント苦労しますよねー」
なんとなく雲行きがあやしくなってきたのを感じて、志智がとりなすような口調で割って入った。
「まぁ、今日はね、この島の大事な日なんで、その日に免じてこの辺でシュティ貰ってっちゃってもいいっすかね? オレたちお迎え係なんすよ」
志智はニコニコと話を続ける。まるで、大げさなテレビ局の関係者のような口ぶりなのが、笑いのネタのようで少し滑稽だと君影は思った。
「あぁ、そういえばそうだね、聞いてるよ。入り時間に合わせて迎えが来るって、それ君たちだったんだ。マネージャーが来るのかと思ってたよ」
「あはは、マネージャーは他にも仕事があって大忙しなんですよ~。自分たちができることは自分たちでやっていかないとね、ダメでしょ? 昨今のタレント事情は特に」
何が昨今のタレント事情は特になのだかさっぱり君影には分からなかったが、相手は志智のいい分に大いに納得したようだった。
「さすが志智くんだね、業界分かってるね。お父さんがあのお笑い界の重鎮だからアレなのかな」
やはり、何がアレなのかさっぱり想像がつかなかった君影だったが、相手の機嫌が良くなったのはなんとなく分かったので、シュティがトイレから出て来たのをそのまま連れて行く許可を取った。
笑顔で見送り、相手が元来た道を戻っていってしまったのを確認した志智は、急に真面目な顔になり、ポツリと言った。
「なんか、変やな」
「ん? 何が?」
「あの男、なんでこんな所におるん?」
「へ? 知り合い?」
「いや、全然知り合いでもなんでもないんやけど、あいつ、ちょっと前に問題になったヤラセ番組のプロデューサーやないか…。それが、なんでシュティが出演するような番組作っとるんや。しかも」
なんで、この式典があるような日に打ち合わせをわざわざ組んでんのやろう?
君影は、確かにその疑問は自分も思っていたな、と思った。
こんな時に打ち合わせを組まなければいけないほど、段取りが悪いような番組制作は、やはり、シュティの機嫌を悪くしてしまうのかもしれないな、とも思った。