The show must go on-05-
05
「なんで、あんなことになったんだ?」
「なんで、本があんなに大量にあったん?」
「なんで、パンダ?」
同じだったのは最初の三文字だけだった。
まったく同じタイミングで同じ始まり方をしたのだったが、まったく話が噛み合なかった。
「……」
「……」
「……」
無言で立ち止まる三人。
君影は掴んでいた多喜の襟首をようやくこの時になって離した。
お迎え行脚の一行は、もう一人のメンバーを迎えに行く為にマンションと地下同士で繋がっているテレビ局の建物に来ていた。
君影と志智は進行方向を向いている、引きずられていた多喜は、進行方向とは逆を向いている。
各々の思いが交錯する沈黙を経て、何を誰の疑問を優先させるかを吟味した結果、君影と志智はくるりと、多喜の方へ向き直った。
「なにが、パンダ?」
今度は異口同音になることができた。
「……もういない、着ぐるみ」
一瞬だけ、パンダの着ぐるみがいた。多喜の目にはそううつったようだ。
「ふーん。まぁ、ここは局内だし、パンダの着ぐるみの一匹や二匹いても、そんなにおかしくはないよな」
多喜が見ている方向へ同じように君影も視線を向けながら感想をもらす。
君影の目にうつっているのは、何の変哲もないただの殺風景な白い大理石風のタイルが敷き詰めてある廊下だけだ。そして人っ子一人いない。
「追いかけてみようか?」
「止めなさい」
多喜が聞き、君影が答える。
その様子を傍らで見ていた志智は飼い犬と飼い主の会話のようだな…と思った。飼い犬が喋ることができたなら、という前提での話だが。
「で、結局あの大量の本はなんだったわけ?」
志智が聞いた。
人が埋まるほどの本を部屋に持っていたのにも驚きだが、今日この日に多喜は一体何をしようとしていたのだろうか気になって仕方がなかったのだ。
「…あぁ」
聞かれた多喜は話をまとめるための間を持った。
「シュティが読みたい本を探してて、見つけたところで安心して、寝た。本が大量にあるのは、普段から…?」
「つまり、普段から多喜のあの部屋は本で埋め尽くされていて、たまたま、シュティに頼まれた本を探してたら、眠くなって雪崩を起こさせてしまったと」
色々条件が重なったのだと、そういうことらしい。
「でもさ、多喜。お前、住む部屋とは別に図書室持ってへんかったっけ?」
志智は疑問を口にした。
この島の観光大使役のこのグループは、普段撮影やなんだかんだと島に拘束されてしまう。いや、むしろ島から外に出る方が少ない。
大きな視野で見てみると島に軟禁されているも同然、ということで生活に関する福利厚生はかなり手厚くされている。
自分の住む部屋以外に、自分の趣味を満喫できる部屋というものが一人一部屋用意されているのだ。
君影は音楽を満喫できる部屋を、志智はミニシアターを、多喜は図書室をそれぞれリクエストしあてがわれている。
趣味のものは大概その部屋に全部収まってしまうので、逆に生活スペースにはそれほど趣味のものが散乱したりはしない。
「手狭になった」
多喜は完結に答えた。
「どんだけ文字ホリックなんや…」
唖然として答える志智。
「…そこは、英語変換しなくていいと思うけど」
「ああ! そうね!!」
(多喜にツッコまれた!!!!)
「置いて行くぞ~七輪」
10メートルほど先から君影に声をかけられるまで志智は呆然と立ちすくんでいた。
「だ~か~ら~! おれを練炭炊く道具と一緒の発音すんのはやめぃ!」