The show must go on-03-
03
I.O.Lプロダンクション所属のタレントは、この島の芸能エリアと呼ばれる地域の一画にあるマンションの中に全員が部屋を持っている。
つまり、君影も志智もこれから迎えに行く多喜、それからもう一人も同じマンション内に住んでいるため、迎えに行く作業はとても楽だった。
「多喜もさぁ、朝早くから身体鍛え始めるのはえぇんやけど、普通の人の活動時間になると寝ちゃうっていう癖、あれ、いい加減直さないとヤバいよな~」
いつか、大きな遅刻の元になるって、と、志智が、頭の後ろで腕を組みながら言う。
「お前の趣味の夜中のカウチポテトと、どっちが遅刻する原因になるかって考えたことあるか?」
君影は、他人の振り見て我が振り直せだ、と冷たく応じる。
「まだ遅刻してないってば、おれ。ちゃんと加減してるやん」
春日多喜、年齢十九歳。やはりI.O.Lプロダクション所属の俳優。活字中毒の気がある大人しい気性であるにも関わらず、化け物じみた運動能力を持つ寡黙な青年。寡黙とは言っても、ストイックな寡黙さではなく何も考えていないのではないかと思えるようなぼーっとしたところがあるのだ。
化け物じみた運動能力は、天性の資質だけでまかなっているわけではないようで夜が明ける頃から外に出て行く。そのため、普通の人が朝ご飯を食べるような時間は多喜は熟睡中ということがよくある。
「多喜、起きてるかなぁ」
志智はもう一度天井をみながら言った。
寝てたらどうやって起こしたらいいんだろう? という言外の疑問を君影は察した。
さて、この島は、観光開発されていたものを客足が伸びなかったため開発を行った会社が倒産、そこを、二束三文というには莫大な費用だとは思うが、朱鷺羽グループという元財閥のご令嬢が幼い頃に彼女の祖父に頼んで島を丸ごと二束三文で買ってもらい、自分の好きなように再開発を行った。
その、ご令嬢というのは、君影の目から見ると良く言えばアグレッシブな女性で、悪く言えば自分至上主義の女王様…。そんなお嬢様がこの島を開発するとどうなるのか?
結構まともな開発内容だった。
島をだいたい「観光エリア」「行楽エリア」「芸能エリア」「学術研究エリア」と四つ、それぞれにテーマを持たせ分割した。
分割するだけでなくそれぞれ相互に連動させた。
芸能エリアは学術研究エリアでの成果を番組制作をし注目を集め資金調達に一役買い、学術研究エリアは島のインフラ整備を研究して、他のエリアでどういう結果になったかのフィードバックを得る、研究成果はそのまま観光資源やインフラへと流用、そんな風に全てが連動し島一つで完結するようにお嬢様の気のむくままに好みのデザインで作り上げられた。
君影たちが所属するI.O.Lプロダクションというのは、その芸能エリアで制作される番組に出演するタレントのマネージメントを行う会社となっている。
今から二年前、歌手、お笑い芸人、俳優、子供タレント、モデル…おおよそ人が興味を持つと思われる分野のタレントを一人ずつ集め宣伝グループを結成させた。お嬢様のスカウトや縁故によって集められた君影たちは、この島へ本州から人を集めるための宣伝活動の役割を担うことになった。
年齢も職業も更には人種までもばらばらなグループで、最初はどうなることかと思ったが、まぁ、二年の間にアイドルグループと呼んで差し支えない程度にはなんとか形になってきた、と君影は評価している。