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Critical condition-02-

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 走っている車は急には止まれないのと同じように、走り出した計画はそう簡単には止められない。

 しかも、最終段階に来たようなプロジェクトならなおさらだ。

 引き返すことなんて出来ない。

 たとえ、その中心にいる静香が死んだとしても…。

 静香はある程度そんな妨害が、アメージングランドの営業開始に合わせて起こるということは覚悟していたんだろう、君影は今更ながら実感した。

 静香は、君影たち観光を宣伝するためだけのタレントに対して、まるで要人警護を担当する警察官や自衛隊員のような訓練を施した。スカウトしたのもまるで無名のタレントともいえないような人間ばかり。

(あぁ、そうか。むしろ逆なのか)

 妨害する奴らが特定出来ないのなら、妨害し易そうなポイントをわざと作ったのか。だから、そのポイントに関係する人間の方を対処出来るように鍛えたのだ。

(つまり、まだまだこれから何かが起こるってことか)

 アメージングランドの営業開始に合わせて、他にもイベントがある。

 近傍にあるホールのこけら落としとなる、君影の単独ライブに五人全員が出るイオフロート内で開発された新素材を使ったファッションショーがそれだ。

(名実ともに芸能人ですって言えるようになるには、今回のこけら落しを無事に乗り切ってからなんだな)


 鼻をつくツンとした匂いにで君影は素に戻った。

 自分のソロライブのゲネプロ中だった。

 今はステージの上にいる。

 真新しいステージは何もかもが新しく、どこかペンキのような匂いがしていたのだが、急激にツンときて涙が出そうになった。そして咳き込む。

「ちょ、ちょっとごめん! なんか変だ! 急にツンと来た!」

 咳き込みつつも片手を上げて合図をしながら言った。

 なおも咳き込みながら君影はステージ中央から下手の舞台袖に駆け込んだ。

 袖に待機していたスタッフの一人が君影にタオルを手渡し、君影はそれを受け取ると咳が収まるまでしばらく待った。

「ねぇ、スモーク炊き過ぎじゃない?」

 君影は回りに問う。

「いえ、今はスモークマシン止めてますよ」

 スタッフが返事をした。

「マジで? なんかコゲっぽい感じだったけど…。まさか袖幕が照明に当たっててコゲてたりとかしてねぇ?」

 冗談めかして言いながら、君影はタオルを返す。

「止めてごめん、戻る!」

 君影が袖から出て立ち位置に向かいかけた瞬間、バチバチっと音がしてあたりが真っ暗になった。

「停電だ!」

 ざわめくスタッフの声。

 暗闇の中で、舞台上の蓄光テープだけが浮かび上がっている。

 ボンッ

 と、もの凄い音がした。

 舞台の客席の方からのように感じた。

「何だ!?」

 誰かが声を上げる。

 君影は音のした方向へ目を向けると、暗闇の中に光とその当たりが灰色っぽくなているのを見つけた。

「誰か消火器持ってこい! それと懐中電灯!」

 君影は叫んだ。

 よく段々暗闇に目が慣れてくると、燃えている場所が舞台の丁度一番客席側のあたりだということが見えた。そこにあったのは、モニターだったはず。

(モニターが爆発した? こんな新しい設備で電気火災?)

「火事!?」

 誰かがまた叫んだのを皮切りに「え!?」「火事!?」「どうして!?」などといった驚きがひしめく。

 パニックになるいやな予感に、君影は消火に動こうとしたが、火の向こうになにか熊のような影が見えた。

(パンダの着ぐるみ野郎か? あいつやっぱり犯人なのか!)

 直感的にパンダの着ぐるみだと確信した君影は走り出した。

「スプリンクラー何で作動しないの?」

「火報切ってます!」

「水はダメだ水は!」

「きゃっ」

 走り出した君影は、懐中電灯を持ってわたわたとしているスタッフにぶつかった。目はパンダの着ぐるみをとらえたままだ。

「ごめん! ちょっとどいて!」

 数秒でパニックに陥ったスタッフに阻まれてパンダの着ぐるみが追えない。パンダの着ぐるみは君影の視界の中で奇妙な動きをしていた。

 大きな箱を抱えて火のあたりをうかがいながらウロウロとしている。

(まだ何かするつもりなのか?)

 パンダの着ぐるみは箱を抱えて火を中心にして左右にウロウロとしながらなおも近づいていた。だんだんと、パンダの着ぐるみだということがはっきりしてくる。

「なんで!? なんでこんなに燃えてるの!」

「バカ! 消火器ってこい! 感電するぞ! プラグ関係全部抜け!」

「119番連絡は!? 電気火災だって伝えろ!」

「連絡しました!」

 火へだんだんと近づいていったパンダの着ぐるみが、突然飛び上がったかと思うと、箱を置き視界から消えた。

「煙に巻かれたら死ぬぞ!」

「懐中電灯!」

「電源全部落として避難!」

 君影はパンダの着ぐるみが視界から突然いなくなり「え?」と思ったが、すぐに逃げたのだと思い負追おうとした。

(こんな時に多喜が入ればなぁ)

 一昨日に多喜がパンダの着ぐるみを見かけた時に後を追わせていたらこんな事態にならなかったのだろうか? と、君影に一抹の後悔がよぎったが、混乱した中で火が消える気配がない。君影は「チッ」と舌打ちをすると、パンダの着ぐるみを諦めて消火器を取りに行こうと、火に背を向けた。

「火が!」

 誰かが言ったのを聞き、振り返る。

「消えた!」

 また、誰かが言った。

 君影の目の前で、誰かが消火器を火に向けていた。

 が、その服装が問題だった。

(チャイナ服?)

 火が消えるまでの一瞬だったが、君影の目にはおかっぱ頭のチャイナ服の女が焼き付いた。

 絶対にスタッフではない。

「誰だよアイツ!」

 また、得体の知れない不審人物の登場だ。

 パンダの着ぐるみにチャイナ服の女…。

「あいつら絶対グルだ!」

 畜生! と君影は叫んでいた。

某サイトでipad向けの電子書籍無料配布企画に参加しました。

が、公開されるかどうかわからないので、PDFにして配布しています。

ご興味がありましたら、パソコンからダウンロードしてやってください。

(h)ttp://iolnet.sakura.ne.jp/dl/ioldokuhon.pdf

時間軸としては5人が初顔合わせするくらいの時間軸で、

君影スカウト、シュティスカウト、初顔合わせ(漫画)、志智視点で地獄のオリエンテーリングの始まり 4本のショートショートが読むことが出来ます。

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