The show must go on-16-
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おれの芸能人生これで終わりか~?
呼ベル本ベルなし、段取りなし、台本なし、全部アドリブでってホントにむちゃくちゃやなぁ、本来の段取りにつなげるのも自分やし、しかも十五分必死でつないでも、もしかしたらお嬢はこないかもしれない。その時はその時で、お嬢がいないままで、進めていかなくてはならない。
The show must go onの鉄則なのだ。
一度始まった舞台は続けなくてはならない。
(ホントに無茶すぎる)
志智は、腕時計を確認する。
あと五分。
時間は刻々と迫ってくる。
なんで、こういう日にハプニングが起こっちゃうかな、普通こんな大事な日は念には念を入れて失敗のないようにするもんちゃうんか、二年も前から決まってるような式典には…。
志智は走馬灯のように二年間の道のりを振り返る。
お笑い芸人の大御所という普通の生活を送るには困るような父親を持つ環境の中、父親の影響を受けないように受けないように勉強も頑張り国立大学にも受かった、見てくれも爽やかさや清潔感に気を配って頑張ってきたにもかかわらず、いざひょんなことから芸能界へ入ると、自分にはお笑い芸人の道しかなかった。しかし、朱鷺羽静香という人は、お笑い芸人だけではない道も示してくれたから誘いに乗ってみたのだ。
二年間、確かにお笑いだけではないアイドルとしての仕事があり、芸能人という範疇から外れるようなレッスンもあったりはしたものの、結構順風満帆だと思っていた。
今日までは。
(今日コケたらなんにもならへんのや畜生)
なんとしても乗り切らなくてはならない。
「せめて、出る時になんかいい感じのジングル入れてくれよ~」
えぇいままよ。と踏ん切りをつけ、志智は舞台に上がった。
『イオトラストプレゼンツ アメージングランド営業開始記念式典へようこそお越し下さいました! アメージングどっきり企画は十分に放送してくださいましたか?』
港から公園にかけて、ところどころに配置してあるモニターが一斉に志智の姿を映し出した。
時間になったんだとシュティは思った。
志智は、謝辞を述べながら自分の背に隠していた急ごしらえの「どっきりでした!スイマセン!」と書かれている手持ち看板を出した。
シュティの回りにいた招待客や報道関係者は、そのモニターから流れてくる言葉に一斉にとまどいの声を上げている。
『さてさて、大いに驚いてくださった皆さんの様子を見てみましょう~!』
モニターの中の志智はそういいながら携帯電話を操作している。
すぐさまシュティの隣にいた多喜の持つ携帯電話が振動を始めた。
多喜が通話ボタンを押す。
『港近くに我らがメンバーのシュティと多喜に一番驚いてくださった皆さんを取材してもらおうと思います。現場のシュティと多喜~?』
志智がいい終えると、モニターは画面の半分が多喜の持つ携帯電話の画像へと切り替わった。正確にいうなら、志智の持つ携帯電話と多喜の持つ携帯電話がテレビ通話をしている画面に切り替わった。多喜が携帯電話のカメラでシュティを映している絵だ。
逃げやがったな志智。心の中でシュティはつぶやいた。
もう少し向こうで頑張るかと思っていたのだが、志智は挨拶が終わるや否やシュティに振ってきたからだ。
「はーい! ここはアメージングランドの玄関口、ポートアインシュタインです。実に多くの人がこちらにいらっしゃってますよ志智くん! 会場内は閑散としてるんじゃないでしょうか?
もしそうだとしたら、賭けはボクの勝ちなので、志智くんに七三分けになってもらいつつ、取材をしてみたいと思います」
シュティはにこやかに多喜の持つ携帯電話のカメラへと手を振った。
『ちょ、シュティなに言ってんねん!』
画面の半分の志智が聞いてないよとリアクションを起こす。
そこへ、悪い笑みを浮かべた君影がクシとワックスを持って登場した。
「ざまーみろ」と思いつつも純真な笑顔を浮かべながらシュティは顔に似合わず流暢な日本語で喋り始める。
「ボクたちは二年程前から、このイオフロート島の観光大使として宣伝に努めて参りましたが、その集大成ともいうべき今日は、皆さんに驚きと興奮と更に今後のアトラクションとコラボレーション予定の映画の一部になっていただこうとこのどっきりを計画しました。
現在、上空ではイオトラスト代表の朱鷺羽静香がプリンセステンコーさながらの脱出劇を演じております。ヘリコプターからダイブした後、無事会場までたどりつけるかどうかはご覧じろ~ということで…。
あ! 今、みなさん見えましたか? 上空にパラシュートが見えます! こちらに向かってきています!」
モニターの中の君影と志智も、え? という表情で空を見上げる。
「ボクの計算では、もうあと五分程で会場へ到着する予定ですので、こちらにいらっしゃる皆さんは会場へ向かわれた方が良いかと思われます」
シュティは「どうですか? 感想は?」などと適当に話しかけながら、港付近にいる人間たちを会場へ誘導することに成功した。