The show must go on-14-
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「堀ちゃんちょっと話があるんすけど」
君影は、舞台袖にいた舞台監督を呼び止めた。
「よっす君影、なーんかお嬢のヘリ事故ってるんだっ…」
事故ってるんだって? 全部言い終えない内に、君影はあわてて堀ちゃんと呼んだ舞台監督に飛びついて口を塞いだ。
「やだなー堀ちゃん、映画の撮影やってんだってこないだ飲んだ時言ったっしょ? 忘れたの~?」
袖にいる皆も誤解しないようにね、あっははははは…。
(あぁぁ、スゲーわざとらしいなオレ…)
君影は満面の笑みで、回りの出演者にも愛想を振りまく。
わざとらしいと分かっていても、今はそのまま押し切るしかない。
堀は君影のライブで必ず舞台監督として入ってるので、君影とは顔見知り…というか、飲み友達だった。
周囲に愛想を振りまきつつも、堀とスクラムを組むような形で肩を抱き寄せて小声だが怒鳴るように話しかける。
「ちょ、ちょ、ちょっとさぁ、堀ちゃん頼みがあんだけど。お嬢事故ってるらしいんだよね」
「何、マジかよ、さっきから中継入ってんの本当の話なのか! 全然こっちまで指示回ってこないからさ、ちょっと困ってたんだっつの」
堀も同じように喋り返す。
「オレもさ、さっき入ったから、どんな中継入ってんのか、オレ実は知んねぇんだけど、でもさ、墜ちたとか言ってねぇだろ? 多分」
「確かに言ってねぇな。で、どうすんの、止めんの?」
「いやいや、お嬢怖ぇからやるやる。でさ、なるべく段取り変えないようにやるけど、報道入っちゃってるからフォロー入れようって話になってんだ」
「まぁ、暗いとこでやるワケじゃねぇし、なんとかすんべ。で、何、映画撮ってるんで事故ってるように見えても事故ってないでーす、とかって苦しい言い訳すんの?」
「簡単に言えばそんな感じ、志智がそれで時間稼ぎするから、その間にお嬢が多分空から降ってくるって」
「何それ、パラシュートで降りちゃうんだ? 確実な話しなワケ?」
「シュティの予測っすよ」
「あ、じゃぁ了解。シュティがGO出してんならオレ乗るわ」
堀は自分の腕時計を見る。話が見えれば十分だった。舞台セットの位置の変更とトランポリン位置の変更を素早くインカムで伝達する。
「そこまで当てにしていいのかよ」
「あいつと一ぺんちゃんと話してみろ~? お前よりよーっぽどしっかりしてんぞ~。じゃぁ、両横に設置してた滑り台を面側に向けて、トランポリンを舞台の奥側に設置しといてやるから、そこにお嬢を投げてもらえ。そこ以外に降りるんだったらちゃんと降りられるだろうからオレは知らん。あ~今からだと…予ベル本ベルなしで、定刻になったら志智がスタートって感じか…。通常の段取りに戻るまで何分だって?」
「十五分」
「十五分ね、了解」
「サンキュー堀ちゃん、シュティに伝えとく」
「うぃうぃ、今度お前のおごりでよろ~」
お前は一体いつシュティとちゃんと話したんだよ堀ちゃんよ…。
君影は、三十路を過ぎたまばら無精髭のおっさんと十四歳のシュティがちゃんと話しているところを想像しながら走った。
(どう考えても犯罪ちっくな絵面にしかなんねぇって! 気をつけろよおっさん…)