The show must go on-12-
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君影がマネージャーの元へたどり着いた時には、既に険悪な雰囲気が漂っていた。
マネージャーを囲み、皆一様に眉をひそめている。
「遅れてすまん。なんだかパンダがいたぞ、会場内に」
さっき多喜が見たパンダの着ぐるみと同じだろうか? と続けようとしたのだが、「後にしてください、君影」と、シュティに遮られてしまった。
「どうした、なんかあったのか?」
言いながらマネージャーを見る。
「あ…、あの、…あの」
マネージャーはたどたどしさに輪がかかった状態だった。何か問題があったようだ。
「ショックを受けているのは仕方ありませんが、もう一度ちゃんと話してもらえますか?」
シュティは静かにだがいらだった口調で、マネージャーに話しかけた。
君影は、自分がいない間にもたらされた情報をすぐにでも知りたかったのだが、口を挟むべきではないな、と思って黙っていた。
マネージャーがこれほど動揺しているということは、自分たちに関係ある部分で何かがあった、というのは想像に難くない。
今現在、何事もなく志智、多喜、シュティ、マネージャーがここにいるということは、少なくともそれ以外、機材、舞台、他の出演者…もしくはルイとお嬢に何かあったのだとすると…。
そこまで、考えて君影ははっと会場の入り口の方向、そして、空を見上げた。
会場に入らず、皆、何をしていたのか? それは、お嬢とそのエスコート役のルイが乗ったヘリコプターに何かあったということなのか?
「なぁシュティ、ヘリってどうやって飛んでるんだ?」
空を見上げながら、君影はシュティに聞いた。
「飛行機と同じですよ」
シュティはマネージャーから目をそらさずに答えた。
「なぁ、ヘリって何で飛んでるんだ?」
君影はなおも聞く。
「簡単に言えば、ベルヌーイの定理です」
「もっと簡単に説明しろよ」
君影とシュティのやりとりが段々早くなっていく。
「翼により揚力を発生させて飛んでいます。飛行機は自らが動くことによって揚力を発生させていますが、ヘリは羽を動かして揚力を発生させているんです。シンプルな話でしょう」
シュティも無表情に答える。
「わっかんねーな、簡単に落ちるのか?」
「割と簡単に飛びますし、割と簡単に落ちます」
「どうやったら?」
「揚力を失えば」
「どうやって?」
シュティがピタっと答えるのを止めた。
マネージャーから視線を外し、君影の目を見た。
「…操縦不能だそうですよ」
やっとさっきから聞きたかった回答が得られたのだが、それは最悪の想像を確定しただけだった。
「マジで?」
見つめ返した水色のビー玉のような瞳が真剣だった。
「連絡手段はありません。無線の交信も途絶えたとのことです。…そうですね?」
シュティはマネージャーへ確認をとる。マネージャーは何度もうなずいた。
「なぜ、そうなったかという原因については、情報がまったくありませんし、今、その話を追求したところで事態が何か好転することもないです。
ヘリに関して、ボクたちに何かできることはありません。ヘリのパイロットかルイの判断に期待するしかありません」
「あとは神頼みだな」
「神頼み…、そうですね、静香の強運を信じましょう」
静香、と聞いて君影は我に返った。
もし、静香が死ぬような事態になったら、死ぬにはいたらなくとも、もし、ヘリがどこかに不時着して定刻通りに式典が始められない事態になるのだったとしたら…。
「まずいな、この場をどうやって収めたらいいんだ」
シュティがやっと気がついたかといった表情で君影を見た。
「その手段を考えるために、さっきからマネージャーに尋ねているんですよ」