The show must go on-11-
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「なんや…、えらい様子がオカシイやんか」
最初に戻る。
白を基調に燕尾服か学生服か何かをモチーフにした未来的なデザインの衣装へ着替え、それぞれ、メイクを施された四人は、入り口を固める警備員にパスを見せ、セレモニー会場へ勢い良く足を踏み入れた。志智が急に立ち止まり、きょろきょろと会場内を見渡す。何故か、会場の中が閑散としつつも、奇妙なざわめきに満ちていた。
「ああ、そうだな」
続いて入って来た君影も、普通、セレモニー会場というものは、式典が始まる前から人がぽつりぽつりと集まり始め、開始10分前には大体定員になっており、所定の位置へ立っているか座っているかしているものだと思っていたのだが、現在、開始15分前であるにもかかわらず着席する様子がない。
そればかりか、見つける人、見つける人ほぼ全員が厳しい表情で携帯電話でどこかと連絡をとっているようなのだ。
他の客はというと、一様に会場の入り口付近から港の方を見ている。
まるで、大きな犯罪現場か事故現場に出くわしたみたいな様子だと君影は思った。
「…あ…」
志智と君影が立ち止まったのに合わせて、背後で同じように立ち止まった多喜が人差し指を中央にあるカーテンで閉じられたステージへ向けた。
「どうした? 多喜」
三人の視線が、多喜に集まる。
「…マネージャー、あそこ」
言葉少なに告げると、多喜は無言でさっさと歩き出してしまう。
「おぉい、多喜ちょい待ち~」
すかさず志智が声をかけたが、多喜は止まらない。
「とりあえず、マネージャーに状況を聞いてみましょうか。何か異変が起こっているのは確実なようですし」
君影と志智の視線の範囲外の下方より、シュティの不機嫌な声が二人を促した。
「…シュティ、まだ怒ってるんだ?」
「こういう、段取りが悪い状況が嫌いなだけです。全く、あのマネージャーは何をやってるんですか」
シュティが君影の下方からキツイ眼差しを向けながらそう言うと、ぷいっという擬音が聞こえそうな踵を返したので、怒ってるんだな、と君影は思った。
「沸点が低くなってんなぁ」
肩をすくめながら志智はシュティを見送ると、君影へ面白い物を見たといった風情で感想をもらした。
「ちょっと息子の様子がいつもと違うからって、そんな過敏にならんでもえぇんちゃう?」
志智は気にすることないでぇ、と君影の肩をぽんぽんとたたいて多喜とシュティの後を追った。
過敏になっている?
志智にそう指摘された君影だったが、君影自身は、珍しくシュティが不機嫌さをあらわにしていることが気にかかるのではなくて、「そうじゃなくて…」そうではなくて…、なんだろう? 言葉にならない引っかかりを感じているのだった。
(なんだろう、なんか、変なんだよな、シュティ関連のことで、なんか変…な気がする)
喉元までその引っかかりが出かかってるいるのに言葉にならないもどかしさが気になって、君影は誰かとぶつかりそうになった。
「…うわっと、っとスイマセ…、パンダ?」
化粧が施された頬に、毛が一瞬もふっと当たる。
それはよほど急いでいたらしく、君影が気がついたときは、既に振り向かないと確認できないところまで遠ざかってしまっていたが、律儀に「気にするな」と後ろ手に片手を振っていた。
「パンダの着ぐるみじゃねーかよ、おい」
君影は唖然としてしばらくパンダの後ろ姿を見送ってしまった。