The show must go on-01-
えぇと、基本的に男の子五人組が、恋愛要素もなくわいわいやっているのがメインの小説です。
イラスト:洲宮エコ
【The show must go on】
01
「なんや…、えらい様子がオカシイやんか」
入り口を固める警備員にパスを見せ、セレモニー会場へ勢い良く足を踏み入れた西明志智が急に立ち止まり、きょろきょろと会場内を見渡し始める。
野外での結婚披露宴よろしく、行楽エリア内の公園にしつらえたセレモニー会場内はざわめきながらも何故か妙に閑散としていた。
「ああ、そうだな」
続いて入って来た在原君影の目にも、厳しい表情で片耳を手で押さえながら逆の耳に携帯電話をあて喋っている礼服姿の中年男性がうつっていた。他にも、似たような格好で似たような動作をしている人々が会場内に点在しているのが見える。異様な光景だと君影は思った。
明らかに、パーティーという雰囲気ではなかった。
「…あ…」
志智と君影が立ち止まったのに合わせて、背後で同じように立ち止まった春日多喜が人差し指を中央にあるステージへ向けた。
「どうした? 多喜」
三人の視線が、多喜に集まる。
「…マネージャー、あそこ」
言葉少なに告げると多喜は無言でさっさと歩き出してしまう。
「おぉい、多喜ちょい待ち~」
すかさず志智が声をかけたが多喜は止まらない。
「とりあえず、マネージャーに状況を聞いてみましょうか。何か異変が起こっているのは確実なようですし」
君影と志智の視線の範囲外の下方よりシュティア・L・シュレダーの不機嫌な声が二人を促した。
「…シュティ、まだ怒ってるんだ?」
「こういう、段取りが悪い状況が嫌いなだけです。全く、あのマネージャーは何をやってるんですか」
シュティが君影の下方からキツイ眼差しを向けながらそう言うと、ぷいっという擬音が聞こえそうな踵を返したので怒ってるんだな、と君影は思った。
数時間前のことである。
君影の携帯電話が鳴り出した。
そろそろ携帯が鳴る頃かなと思いつつ、リビングのテーブルの上にある苔の鉢に霧吹きをかけていた。
ちゃかちゃかとした音楽が流れ出す。それは、電話の向こうの相手をイメージし、君影自ら作曲したもので、彼の職業のロックミュージシャンという部分が遺憾なく発揮されていた。
「はい、おはよーさんマネージャー」
『あっ…! お、おはようござ、ございます、君影くん!』
何度もつっかえながら、勢い込んで話し出す様子がいつまで経っても物なれないな…、と苦笑を誘う。
『あっ…あのっ! そ、そろそろ、セレモニー会場に向かう準備を…と思いまして!』
セレモニー会場とは、数時間後に始まる、君影が参加するイベントとしては生涯の中で一番大きなイベントとなるであろう記念式典の会場のことである。
在原君影、年齢二十二歳。現在、I.O.Lプロダクションに在籍するロックミュージシャン。
少し長めの深紅の髪、深い翡翠色の瞳、その右目の下には泣きぼくろがあり、年齢の割に艶と憂いを感じさせる青年である。
「おう、サンキュー。用意したら、他の奴らピックアップしていくわー」
性格は意外にもくだけた面倒見の良い常識人であり、嗜好にいたっては…。
『す、す、すいません、いつも! よ…よろしくお願いします!』
いつもながら肩が凝りそうな性格だなと君影は思った。生真面目過ぎるマネージャーは緊張を解くということを知らないようだな、とも思い苦笑を深めた。
君影は通話を終えると、苔の鉢の湿り気具合を確認する。
「お、今日もいい湿り気じゃん」
嗜好にいたっては、苔を育てるということという年齢や職業の割に少し渋めなところがあった。
君影自身、今は作詞も作曲もこなすシンガーソングライターのような仕事を請け負うことが多いのだが、元々はビジュアル系に近いバンドを組み、その中で君影はボーカルを担当していた。ボーカリストの喉は湿度を必要とする、でも、機械には頼りたくない。そんな理由が今の彼の嗜好を作り上げていた。
君影はご機嫌な素振りでシャワーへと向かう。
なんといっても、今日は晴れの舞台だ、自然とテンションが上がってしまうのを自分でも自覚した。
つづきます。