⑨
「……ねえ、裕子」
「んー?」
「来ると思う? 健斗くん」
「そりゃあ、あんた次第じゃないの?」
「え、どうして私?」
「だって、あんたが好きだったんでしょ。ずーっと。あの入学式のバス停から」
「……うん」
「なら、来るよ。そんくらいの気持ち、あいつ持ってる」
「……ううん、でもね。私、あの時からずっと“待ってただけ”なんだよ。高校の時も、卒業式の時も、連絡来るかなって思ってても、自分からはできなくて……。そのうち、あいつ、引っ越しちゃって」
「うん」
「結局、なにもしなかったのは私の方だったのに──それでも、来てくれるのかなって、思っちゃってる」
「……来るよ。地球最後だもん」
「なんか、それも切ないね」
二人で笑った。
でも、笑ったあとに静寂が落ちると、余計に胸がざわつく。
裕子が麦茶を取りに立ち上がる。
「けどさ、ほんとに最後なんだとしたら、好きだって言っとかないと損じゃない? 今さら格好つけてもしょうがないじゃん」
「……でも、来なかったらどうしよう」
「そん時は、私が一緒に過ごしてあげるよ」
「え?」
「え、じゃない。あんたの幼馴染の裕子さんをなめるんじゃありませんよ」
「ふふっ……ありがとう」
「……でも本音言うとさぁ、私はどうして地球最後にこんな青春ラブストーリーの脇役やらされてんのって思ってるよ?」
「え?」
「いや、ほんと。私にもさ、告白されるイベントの一個くらいあってもいいじゃん? 最後だよ?」
「裕子はそういうとこちゃんと自分から動くタイプじゃん」
「それを言うな」
笑いながら、真由美は立ち上がり、カーテンをそっと開ける。
外は、星が近く見えるほど澄んだ夜空だった。
「……来てくれると、いいな」
「うん」
二人が窓の外を見つめるその頃──山の向こうから、ゆっくりと、ひとりの男が地元の街に足を踏み入れようとしていた。