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「裕子ーっ!! あんた起きてんの!? 起きててよ!!」


バンバンッ! と玄関の扉を叩く音が、朝の住宅街にやたら響く。

裕子は寝巻きのまま、片手に歯ブラシを持ちながら扉を開けた。


「なに!? ってか、こっちは今、ちょうど歯磨いて──うわ、真由美、顔ヤバ」


「ヤバいのは地球だってば!! 見た!? ニュース!! 隕石!! 地球、終わるって!!」


「……ああ、アレね。うん、見た。やばかったわねー、てかあたし明日何着て死のうか迷ってたところ」


「ちがうのっ!! 健斗っ! 健斗が、来るかもしれないのっ!」


裕子は、あーまたコレか、という顔で口を半開きにしたまま、歯ブラシをくわえ直す。


「…いやそれ、なんでこのタイミングで来る前提なのよ?」


「だって!! この世界が終わるって時に、健斗が来ないわけないもん!!」


「……恋ってすげぇな」


真由美はもうパニック寸前だった。リビングに座っても落ち着かず、何度も立ったり座ったりして、手元のスマホを握ったまま、通知が来ないかを見続けていた。


「やっぱLINE、送っとくべきかな……でも、なんて送ればいいの!? 『地球終わるね!元気?』とかおかしいよね!? やっぱ……『会いたい』って送るべき?」


「いや、その前にさ、本当に彼がここまで歩いて来てるって思ってんの?」


「思ってる!! 絶対、来る!!」


「……恋ってやっぱすげぇな(2回目)」


裕子は、歯ブラシを口から外して、ティッシュで口をぬぐった。

そして、ぽん、と真由美の肩を叩く。


「じゃあ、迎えに行こう」


「えっ!?」


「って言いたいとこだけど、正直どの方角から来るか分かんないし、山越えだったらスマホも電波届かないかもでしょ? だったらさ、ここで待つしかなくない?」


「……うん、うん……そうなんだけど……」


「待つって、そーとーキツいよ。でも、あんたさ、ずっと待ってたじゃん。3年も。だったらあと数時間くらい、余裕でしょ?」


「……なんでそんなときに限って、正論言うのよ」


「こっちはこの3年、ずーっと、あんたと健斗のモヤモヤを横で見せられてんのよ。こっちが成仏できないわ」


「まだ死んでないでしょ……」


「死ぬ予定よ、明日には! もう寝られる気しないし、化粧しとくか迷ってんのよ!」


「バカ……」


そう言って、真由美は裕子の隣で、ソファに腰を下ろした。


窓の外では、静かな夜が続いていた。

でもどこかで、誰かが、大事な人に会いに行こうとしてる。

自分だけじゃない。みんな、きっと、大切な誰かのことを想ってる。


そう思ったら、少しだけ、呼吸が深くなった。


「……ほんとに、来ると思う?」


「来るよ。だって、あいつバカだもん」


「うん……バカだよね……」


「ほんとバカ」


「……でも、好き」


「……知ってるよ」

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