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山って、登るときより下りのほうがキツいって言うけど、いや、俺はもう登りの時点でキツい。


息が切れる。汗が首のうしろを伝って、背中のシャツに染みていく。

足はずっと前から重たいし、靴ずれも始まってる。

それでも、止まりたくない。


「ったく……なんで、こんなときに限って、電車もバスも全部止まってんだよ……」


あれからもう何時間歩いてるか分かんない。

とっくにスマホの電源は切れてるし、充電器なんて忘れてきた。

家を出るとき、最初はもうちょっと冷静だった気がするんだけどな。

水筒にお茶入れて、リュックに着替え突っ込んで──


でも、気がついたら走ってた。

いてもたってもいられなくて、気づいたら山のふもとまで来てて。


「……あの時、駅で、声かけて……たらなあ」


思い出すのは、あの卒業式のあと。


「真由美」って、ようやく言えたその瞬間に、スマホが鳴って。

「お父さんとお母さんが事故にあった」なんて、そんなドラマみたいなこと、ほんとにあるんだなって思った。


あれから、何度もタイミングを逃した。

仕事だって、最初は「がんばろう」って思ってたんだ。

両親がいなくなった分、自分がしっかりしないとって。

でも、気がつけば会社の歯車になって、時間に流されて、疲れて、週末は寝て、朝はギリギリ、夜は終電。


そんな日々の中で、真由美の顔を思い出すのが怖くなってきた。

忘れたくないのに、思い出すと苦しくて、怖くて。


でも、昨日。


「あと27時間で、地球に隕石が衝突します」


ニュースのアナウンサーは泣きそうな声で、淡々とそれを言ってた。

SNSはパンクして、駅は大混乱。

それをぼんやりと見てた俺は、なにも考えずに立ち上がって、リュックを掴んで──今ここにいる。


「……バカだなぁ、俺。真由美も、会いたくないとか思ってたら……どうすんだよ」


枯れ枝を踏む音がやたらデカく響いて、俺の独り言が山に吸い込まれていく。


でも、会いたいんだ。


たった一言、「好きだったよ」って言いたいだけなのに。

たった一言、それが、どれだけ難しかったか。


それを言えないまま、世界が終わるなんて、あまりにもバカすぎる。


「間に合えよ、俺……!」


息を吸って、もう一度足を踏み出す。

空は夕焼けに染まりかけていて、山の向こうに、懐かしい街の匂いがした。



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