④
そのニュースを見たとき、私はまず、炊飯器のスイッチを切った。
ごはん、炊いてる場合じゃない気がして。
「あと、27時間だって……」
ぼそっとつぶやいた声が、自分の部屋に吸い込まれてく。
ドアをどんどん叩く音がして、隣の家に住んでる裕子が乱入してきた。
髪はボサボサで、ジャージのまま。テレビ抱えてきたのかってくらい顔が真っ青。
「まゆ、ニュース見た!? やばいって、やばすぎるって、地球なくなるんだって!!」
「うん、見たよ……炊飯器止めた」
「そこ!? いや、冷静すぎない!? ごはんどころじゃないじゃん!?」
「うん、だから止めたの」
なんかこのやりとり、コントみたいだったけど、
心の中はもう、嵐みたいにグルグルしてた。
でも、最初に思ったのは――
健斗くん、どうしてるかなってことだった。
「あの人、来てくれるかな……」
私のつぶやきに、裕子が言葉を詰まらせた。
「……あの健斗? あんたまだ待ってんの?」
「うん。ずっと。……卒業式のとき、ちゃんと告白されなかったから」
「でもそれって、もう何年も前じゃん。連絡も来なかったんでしょ?」
「うん。でも……なんか、まだ終わってない気がして」
裕子はしばらく黙って、それからソファに座ってため息をついた。
猫背のまま、天井を見上げて、ぽつりと。
「そんで、私はそのふたりを地元でずっと見守ってて、地球滅亡の最後の瞬間も、結局ひとりなんだろーなー」
「え?」
「……なんでもないっス」
私はテレビを消して、窓の外を見た。
いつもと同じ街。いつもと同じ空。
でも、もうこの景色も見納めなんだと思ったら、涙が出そうだった。
でもその涙の中に、ちょっとだけ、期待もあった。
――健斗くん、来てくれるかな。
そんな奇跡、起きるわけないって思う自分と、
でも、きっと来るって信じたい自分が、頭の中で言い合いをしてた。
裕子は冷蔵庫を勝手に開けて、プリンを持ち出してた。
「とりあえず、最後のプリン食べよ」
「私のなのに……」
「じゃあ半分こ」
――そんな感じで、地球最後の一日は、静かに、でもどこか騒がしく始まった。