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そのニュースを見たとき、私はまず、炊飯器のスイッチを切った。

ごはん、炊いてる場合じゃない気がして。


「あと、27時間だって……」

ぼそっとつぶやいた声が、自分の部屋に吸い込まれてく。


ドアをどんどん叩く音がして、隣の家に住んでる裕子が乱入してきた。

髪はボサボサで、ジャージのまま。テレビ抱えてきたのかってくらい顔が真っ青。


「まゆ、ニュース見た!? やばいって、やばすぎるって、地球なくなるんだって!!」


「うん、見たよ……炊飯器止めた」


「そこ!? いや、冷静すぎない!? ごはんどころじゃないじゃん!?」


「うん、だから止めたの」


なんかこのやりとり、コントみたいだったけど、

心の中はもう、嵐みたいにグルグルしてた。


でも、最初に思ったのは――

健斗くん、どうしてるかなってことだった。


「あの人、来てくれるかな……」


私のつぶやきに、裕子が言葉を詰まらせた。


「……あの健斗? あんたまだ待ってんの?」


「うん。ずっと。……卒業式のとき、ちゃんと告白されなかったから」


「でもそれって、もう何年も前じゃん。連絡も来なかったんでしょ?」


「うん。でも……なんか、まだ終わってない気がして」


裕子はしばらく黙って、それからソファに座ってため息をついた。

猫背のまま、天井を見上げて、ぽつりと。


「そんで、私はそのふたりを地元でずっと見守ってて、地球滅亡の最後の瞬間も、結局ひとりなんだろーなー」


「え?」


「……なんでもないっス」


私はテレビを消して、窓の外を見た。

いつもと同じ街。いつもと同じ空。

でも、もうこの景色も見納めなんだと思ったら、涙が出そうだった。


でもその涙の中に、ちょっとだけ、期待もあった。


――健斗くん、来てくれるかな。


そんな奇跡、起きるわけないって思う自分と、

でも、きっと来るって信じたい自分が、頭の中で言い合いをしてた。


裕子は冷蔵庫を勝手に開けて、プリンを持ち出してた。


「とりあえず、最後のプリン食べよ」


「私のなのに……」


「じゃあ半分こ」


――そんな感じで、地球最後の一日は、静かに、でもどこか騒がしく始まった。

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