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社会人になってからの俺は、もう別人だったと思う。

なんつーか、感情とか、ほぼ削れてた。

朝出社して、深夜に帰って、飯はコンビニ。風呂も寝るのも効率重視。

毎日、カレンダーに「×」をつけてくのが唯一の趣味っていうか、習慣?

そんな生活をしてたら、「真由美」って名前すら、口に出すのがこそばゆくなってた。


あの日までは、ね。


カレンダーに「△」って書いてた、奇跡の連休初日。

やっと墓参り行けるって、早起きして、歯も丁寧に磨いた。

部屋に射し込む朝日が、なんか今日は優しいなって思った矢先、

スマホが、鳴った。


ニュースアプリの通知。


《NASA発表:明日、小惑星が地球に衝突。回避は不可能との見解》


……は?

って思ったけど、指が勝手にスワイプして、動画を再生してた。


「衝突まで残りおよそ27時間。世界各国は混乱を避けるため、平静を保つよう呼びかけています」


ナレーションが他人事みたいに言うけど、頭が真っ白で、心臓が変な音を立ててた。

で、そのまま崩れ落ちたよね。コンビニの袋、床にぶちまけたまま。


何時間か、その場で動けなかった。

っていうか、泣いた。わりと情けなく。

「やっと休み取れたのに」って。

「これからやり直そうと思ってたのに」って。


でも――


次に思い浮かんだのは、真由美のことだった。

高校の時のあの顔。卒業式の日、声をかけたときの、あの嬉しそうな目。

あれが、ずっと頭から離れなかった。


「告白、まだだったな」


俺は立ち上がって、シャツを着替えて、鞄も持たずに家を出た。

もう、会社も社会も知らん。

電車も止まってたし、バスもタクシーも全部ダメだった。

でも、道はある。足がある。

だったら、歩くしかないじゃん。


最後の時間、最後の気持ちを、あの子に伝えに行く。

これで笑われても、フラれても、世界が終わるならもう、怖くなかった。


山道はきつい。スニーカーも、すぐに泥だらけになったし、

途中で足をくじいて、腰のあたりもズキズキ痛んだけど、

それでも、不思議と心は軽かった。


道すがら出会う人たちがさ、みんな優しくて泣けた。

「気をつけて帰りなね」「誰かに会いに行くのかい?」

そんな声が、まるで背中を押してくれるみたいだった。



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