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空には、もう星がこぼれ落ちそうなほど瞬いていた。
「……綺麗だね」
「うん。なんか、信じられないくらい」
そんな会話の余韻を楽しむふたりのもとに、トコトコと近づく足音。
「はーいはーい、ハイチーズなところ申し訳ないけど」
裕子だった。手には、くしゃくしゃに折れた封筒。
「はい、これ。真由美から。ってか、真由美の“過去の遺物”ですな」
健斗がそれを受け取ろうとした瞬間――
「ちょっと待ったああああああああ!!!」
真由美、全力でかぶせる。
「な、なんであんたがそれ持ってんの!?ってか、え!?それ、まだ持ってたの!?やめてよーもう!!」
「うるさいなー捨てようかと思ったけど、なんかあんた本気っぽかったから残しといたのよ。こういうのって…なんていうの?女の勘?」
「いらないよその勘! 返してよーもう、ばかー!」
バタバタしてる真由美の横で、健斗はそっと封を開ける。
『健斗くんへ』
私、ずっと言えなかった。
でも、いつか渡せたらって……
あのバス停の日から、ずっとずっと、あなたが好きです。
健斗はゆっくり顔を上げた。
「真由美……」
「だから、読まなくていいってばああああ!!いま言ったでしょ!?今聞いたでしょ!?もー……最悪……!」
顔を真っ赤にして地団駄を踏む真由美に、
裕子は腹を抱えて笑い出す。
「いやー青春っていいねぇ。最高のエンタメだったわ」
そんな賑やかな空気をぶち破って――
「健斗ォォォ!!」
怒号。
地響きのような足音とともに、真由美の父が全力ダッシュでやってくる。
「うわ!? え、ちょ、ちょっと待って!? なんで!?」
「男のけじめってもんだ!!一発だけでいい!ずっと我慢してたんだぁぁ!!」
「なんで今解禁するのお父さん!?」
「ここしかないだろうがァァァ!!地球終わるんだぞォォ!!」
健斗、魂抜けた顔で後ずさる。
「オレ、やっぱ帰ろうかな……」
真由美が呆れて、でもちょっと笑って、
健斗の腕をつかんだ。
「もう、ちゃんとしなさいってば。うちのお父さん、地球終わっても終わらないんだから」
裕子は、ひとりポツンと取り残されたまま、空を見上げる。
「……ねえ神様、わたしの青春、どこ行きました?」
それでも、彼女の顔には笑みがあった。
最後の夜、
そこには――泣き笑いの人たちの、最高のドラマがあった。
ほんとのほんとのほんとに、Fin.