⑳
真由美の家の縁側。
日が傾き始め、オレンジ色の光が障子越しに差し込んでいる。
裕子は、湯呑みを手にしたまま縁側に座っていた。
そこへ、そっと隣に座ってきたのは、真由美の母だった。
「……裕子ちゃん」
「ん? はい、おばちゃん」
母は小さく笑って、膝の上で手を組む。
「……あの子、ずっと待ってたのよ。ほんとに。あんな子なのにねぇ、うちの真由美」
「そんなことないですよ。……私、知ってましたもん。あの子、健斗くんのこと、ずーっと好きだったの」
「ふふ、やっぱり?」
母は、そっと懐から封筒を取り出して裕子に差し出す。
「……これね、真由美が高校生の頃に書いてた、手紙。健斗くんに渡そうと思ってたんだって。でも結局、出せなかったまま、うちにあったの」
裕子は、それをじっと見つめた。
「……それを私に?」
「うん。今じゃないかもしれない。でも、もしかして、どこかのタイミングでね……
もし、あの子がまた、臆病になって言えなくなっちゃったら、裕子ちゃんが代わりに渡してあげてほしいの」
裕子はしばらく黙っていたけれど、やがて苦笑いしながら封筒を受け取った。
「……また便利屋扱いですか、私。でも……はい、了解です」
母は、安心したように目を細める。
「……ありがとね、裕子ちゃん。あなたがいてくれて、ほんとによかった」
「……やめてくださいよ。そういうの、泣けてくるじゃないですか……」
裕子は空を見上げた。
遠くでカラスが鳴いていた。
どこかで、誰かの人生の終わりが、静かに始まっている気がした。




