②
あのバス停の朝から、高校生活が始まった。
って言っても、特にドラマがあったわけじゃない。
俺は相変わらず、ちょっと距離を置きながら真由美を目で追ってたし、真由美はというと、たまにこっちをチラッと見るけど、それ以上は何もなかった。
朝の教室ではおしゃべりする女子の中にいて、帰り道では本を読みながらバスを待ってる。俺が話しかけようと何度かタイミングをうかがったけど、なんかいつも言葉がのど元でつっかえた。
「この前バス停で譲ったやつです」って話しかけたところで、ねぇ?
変なやつって思われたら、それで終わるじゃん。
って、考えすぎて、また話しかけられなかった。
でも、見てるとね、わかるんだよ。
たぶん、あの子も気づいてた。俺が何か言いたげに近くにいるの。
気づいて、でも黙ってる。
たまにこっちを見る目が、それを言ってた。
気がつけば、そんな距離感のまま三年間が過ぎた。
卒業式の日。
やっと、やっと「行くしかねぇ」って覚悟を決めた。
告白なんて人生初だし、失敗したら…って思ったけど、いや、もうそういう問題じゃない。
このまま終わったら、きっと一生後悔する。
式のあと、校門の前でごった返す中をかき分けて、駅までダッシュした。
真由美が、いつもの時間のバスに乗る前に。
走って走って、ようやく見つけたその背中に、声をかけた。
「真由美!」
振り向いたその顔が、ちょっと驚いてて、でも嬉しそうで。
ああ、やっぱりこの子のことが、ずっと――
…って思った瞬間だった。
ポケットのスマホが鳴る。
こんな時に!って思ったけど着信鳴らし続けるのもと思いスマホにでた。
「…ご両親が、事故に遭われまして、すぐに…」
病院からだった・・・
期待していそうな真由美の顔を置き去りにして、俺はそのまま病院へ向かった。
それが、最初で最後の告白のチャンスだったのに。