⑲
真由美の実家のリビング。
相変わらず、昭和の香りがするちゃぶ台と座布団。
ちょっと古いエアコンが、カタカタと音を立てている。
「……それで。歩いて、ここまで?」
真由美の父親が、眉をひそめたまま言う。
「はい…」
健斗はぺこりと頭を下げる。
どこか緊張していて、昔と変わらない姿勢。
父親はふぅ、とため息をついたあと、新聞をたたむ。
「ったく、あの時……あの卒業の日、ちゃんと連絡よこしてりゃ、話は違ってただろうに」
「……すみません」
「まぁ、事故だったってのは分かってるよ。でもな……」
父親は言葉を切り、ふと台所に目をやる。
すると、エプロン姿の母親が、小さくうなずいた。
「……でもな、今日来たってことは、そりゃもう、本気ってことだよな?」
「……はい」
健斗の声は小さいけど、まっすぐだった。
父親は腕を組んで、じっと健斗を見つめる。
しばらくの沈黙。
「……ったく、最後の最後に来るとか、ドラマかよ……」
ぼそっとつぶやいたあと、少しだけ口元がゆるんだ。
「まゆ、部屋の窓、ちゃんと閉めとけよ。夜冷えるからな」
「……うん」
それだけ言って、父親はふらっと庭に出ていった。
「……ごめんなさい、パパ不器用なの」
母親が苦笑いしながら、急須にお茶を注ぐ。
「でもね、あの子が、あなたが来るって、どれだけ嬉しかったか。……よかったね、間に合って」
健斗は頭を下げた。
「ありがとうございます……」
母親は笑った。
「まゆみを、よろしくね」
「……はい」
その声は、なぜだかすごく、温かかった。




