⑯
「……あのさ、」
真由美がようやく口を開いた。
照れくさそうに、けどどこか嬉しそうに、ちょっと目をそらしながら。
「なんで……こんなとこでなにやってんのよ、バカ」
健斗は、笑った。
ずっと言えなかった気持ちが、もう言葉になる寸前だった。
たぶん、次に続くのは──
「おっ、告白タイムかぁ? どうもどうも、視聴者代表で〜す!」
――ガチャッ!!
裕子が、玄関のドアを元気よく開け放った。
「……っ!」
真由美が思いっきり肩を跳ねさせて、健斗の方を見ていた目線をブン投げて引っ込める。
健斗はというと、わかりやすくフリーズ。たぶん魂が一回抜けた。
「いや〜、いやらしいねぇ〜! 何年越しの再会? 甘酸っぱ〜い! 青春かよっ!」
「ちょ、ちょっと! なんで出てくんのよ裕子! いま、いちばんいいとこ……!」
「“いちばんいいとこ”だったから出てきたに決まってんじゃん。
こっちはこっちで、二人がモジモジやってんの、ずっと窓から見てたんですけどー?」
「うわ最悪、窓から……!?」
「健斗くんも、汗だくだし土だらけだし、
このままじゃ“好きです”の前に“お風呂どうぞ”って言われる流れだよ?」
「……ちょっと黙っててくれない?」
「いや〜、でもよかったね真由美。間に合ったじゃん、地球最後のロマンス!」
裕子はニヤニヤ笑って、ふたりの間にずかずか割って入る。
そして、おもむろに麦茶のピッチャーを突き出した。
「ほら、まず水分補給。感動の前に脱水で倒れられても困るから」
「……ありがと」
「……サンキュ」
健斗と真由美、同時にコップを受け取って、
少し顔を見合わせて、また照れてそらす。
「……青春だなぁ、まったく。
いいなぁ、私も告白されてぇなぁ……」
裕子はわざとらしく空を仰いで、
誰もいない空間に向かって両手を広げた。
「……あと数時間で地球なくなるのに、なんで私だけ、安定の“第三者ポジ”なの……」
そのぼやきに、ふたりが少しだけ吹き出す。
少しずつ、緊張がほどけていく。
少しずつ、ふたりの距離が近づいていく。
空は、ほんのりと赤みを帯びていた。
夕暮れか、あるいは──地球の終わりの色か。