⑮
「……やっと、会えたのね」
窓の隙間からそっと覗くと、塀の下、見慣れたふたりの姿。
ああ、あれはもう完全に、恋愛ドラマのクライマックス。
よくあるじゃん。雨の中とか、駅のホームとかで走ってくるやつ。
でもこのふたり、塀の下って。もう、なんなの。
「……はぁ」
私は溜息をついた。
別に嫌なわけじゃないの。むしろ、よかったなって思ってる。
ずっとすれ違ってて、こじらせすぎて、どっちも意地っ張りで。
そのくせ、お互いのことばっか考えてるの、バレバレだったし。
「こっちが胃もたれするわ……青春かよ……」
それでも、よかったね、真由美。
ずっと待ってたもんね。こっそり手紙も残してたし、
卒業アルバムも何度も見返してたの、知ってるんだから。
健斗くんの方だって、
もうこっちに戻ってこないかと思ったのに。
山越えて来たとか、どんな執念よ。
もう、それだけで告白成功していいでしょって思う。
だけど。
「……なんで私は一人で、台所からそれを見守ってるんだろ」
麦茶のピッチャー持ったまま、足が止まったまま。
「ドラマなら、ここで“私もずっと好きだった”とか言って、
わたしまで報われる展開じゃないの?」
自分で言って、ちょっと笑った。
「ま、いいか」
だってあのふたり、
どんなラブレターよりも、どんな映画よりも、
ちゃんと「最後の日」に、想いを伝えあえたんだもん。
「……ったく、間に合いやがって」
口ではそう言いつつ、
私の目も、ちょっとにじんでいた。