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いつの間にか眠っていた。
ちょっと寒くて目を開けると、見覚えのあるスニーカーが、目の前にあった。
白に近いベージュ、かかとが少しすり減ってる。
そのすぐ上に、ひざ丈のスカートのすそ。
震える視線を上げていくと、そこに、いた。
「……真由美?」
その声に、彼女はすこし目を見開いた。
でも次の瞬間、腕を組んで、ふいっと顔をそむける。
「……あんた、なにしてんのよ、こんなとこで……」
小さく、でも確かに震える声。
怒ってるのか、泣きそうなのか、わからない。
いや、たぶんその両方。
「いや……なんか、インターホン押せなくて……そしたら、足が勝手に……」
「どんな帰省よ……最後の最後に、塀の下で会うとか……バカじゃないの……」
口調はツンツンしてるのに、目元が赤くなってて、
頬はピンク色で、どこかうれしそうで。
でも、彼女はきゅっと唇を結んで、またこっちを見ない。
「……来てくれたんだね」
健斗のその一言で、真由美の肩が、ぴくっと揺れた。
それから、ようやく、彼女はまっすぐ健斗を見た。
「……来なかったら、ほんとに一生うらんでた」
その目には、涙がたまってたけど、ちゃんと笑ってた。
「間に合って、よかった」
「ギリギリすぎ。……ていうか、すごい汗。歩いてきたの?」
「うん。山越えて」
「バカじゃないの……ほんとに……」
そう言いながら、真由美はスカートのポケットから、
ぐしゃぐしゃのハンカチを取り出して、健斗の顔をふく。
「ちょっと、じっとしてて。……はい、こっち向いて」
その手はすこし震えてたけど、あたたかくて。
ハンカチは柔軟剤の匂いがした。
「もう、なんで最後に来るのよ……早く来てくれればよかったのに……」
「ごめん。ほんとに、ごめん」
「ばか……」
そう言った真由美の目から、ぽろっと涙がこぼれた。




