⑬
──高校生活って、もっと、映画みたいに進展するもんだと思ってた。
でも、あの人との関係は、始まりそうで始まらなくて。
話しかけてくれるでもなく、でもなんか…いつも、ちょっとだけ距離が近くて。
なに?って思うのに、なにも起きないまま、気がついたら三年間、終わってた。
出会いは──入学式の日の、バス停。
両親と一緒に行く予定だったけど、バスが満員で。
私だけがギリギリ乗れて、お母さんとお父さんは次のバス待ち。
そしたら、スーツのサラリーマンがひとり、ふいに降りた。
きっと会社に行きたくなかったんだと思う。
でも、そのおかげで、母が乗れて──
なんかその人がすごく大人に見えて、かっこよく見えて、思わず目で追ってた。
で、ふと、後ろを見ると、
知らない男の子が私の方をじーっと見てた。
──え、なに?って思ったけど、なんかその子もバスを降りて。
「俺、走ってくんで大丈夫っす」って言って、席を譲って。
お父さんが慌てて乗って、私は呆然とその男の子を見てた。
それが、健斗くん。
あの時から、ちょっと気になってた。
でも、あっちは私のことなんか、ぜんぜん気にしてなさそうで。
教室では静かで、でもノートとかきれいで、たまに先生にツッコまれてて──
なんか、面白いなって思ってた。
体育のバレーボールで、同じチームになったとき、
「真由美、ナイスサーブ」って言われて、
その日は眠れなかった。
でも、向こうからはそれ以上、なにもなかった。
だから、私もなにもしなかった。
できなかった。
──卒業の日、きっと来てくれるって思って、制服もきっちり着て、
第二ボタンも、もらえるかもなんて思って──駅で、待ってた。
私のほうを見つけた健斗くんが、
「真由美!」って言ってくれて、
私も「うん」って答えようとした、その時。
スマホが鳴って。
顔が、すごく変わって。
「ごめん」って、言って──走って、行っちゃった。
……なにが起きたのかも、わからなかった。
ただ、そのまま、何もなく卒業して、春になって、夏がきて、冬がきて、また春になって。
ずっと、思ってた。
「いつか、また」って。
でも、「また」って、いつなの?って、思いながら──
気づいたら、「地球が明日なくなる」って。