⑫
──高校生活って、もっとこう、キラキラしてると思ってた。
でも実際は、キラキラってより、ジトッとしてたな。汗と部活とテストと、地味な日々。
で、俺はというと──ずっと、彼女の後ろを歩いてた。
真由美は、クラスの中ではちょっと不思議なポジションだった。
可愛いし、明るいし、でも騒がしくはなくて。
男子にモテるってほどでもなくて、でも誰かが密かに好きになってる、そんなタイプ。
俺はその「密かに」の中の一人。
いや、多分、けっこう重症なやつ。
入学してからずっと気になってて、でも気持ちを伝える勇気なんか、なかった。
昼休みに声をかけようと歩き出して、
彼女が女子グループに囲まれて笑ってるのを見て、そのまま通り過ぎる──
そんなの、週に三回くらいやってた。
ある日、忘れ物をしたって理由で、わざと教室に戻って、
彼女の机の横を通って──
「……なにしてんだ俺」ってひとりごちて帰った日もあった。
体育祭も、文化祭も、なにか一緒にできるチャンスはあったのに、
全部「タイミングを逃した」で終わってった。
──でも。
思えば、彼女も時々、俺の方を見てた気がする。
目が合って、すぐに逸らされたり、
廊下で何気なくすれ違ったあと、後ろから足音が止まったり。
もしかして──なんて、ちょっとだけ思ったりしてた。
卒業式の日。
もう、これがラストチャンスだって思って。
放課後、駅前で彼女を待った。
制服の第二ボタンも、誰かに取られる前に、自分で隠してた。
ちゃんと、渡せたらいいなって思って。
で、ようやく真由美が来て──
「真由美!」って声をかけた、その瞬間。
ポケットのスマホが鳴った。
見たことない番号だったけど、出た。
出てしまった。
病院からだった。
両親が、事故にあったって。
それだけで、もう何もかもが、吹き飛んだ。
真由美が何か言おうとしてたけど、聞こえなかった。
「ごめん」とだけ言って、その場を走り去った。
第二ボタンは、そのまま。
伝えたい言葉も、そのまま。
──そして、月日は流れて。
俺はあの日から、何も変えられずにいた。