表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

──あの朝のことを、今でも鮮明に覚えてる。


春だった。

少し肌寒いけど、やたらと晴れてて、空だけが無駄に青かった。

高校の制服って、なんであんなにパリッとしてんだろう。俺は着慣れてなくて、肩がムズムズしてた。


バス停には、すでに何人か並んでいて──


その中に、いたんだよ。

彼女が。真由美が。


……というか、正確には、最初に目に入ったのは、真由美じゃなかった。

その後ろにいた、ご両親だった。


お父さんとお母さん、二人してスーツ姿で、なんか初々しい新入生を送り出すって感じの空気出してて。

でも、バスが来た瞬間、それが満員で。

運転手が「あと一人だけ」って言った瞬間──


後ろのスーツのサラリーマンが「降ります」って言った。


え?ってなった。

でも、彼はさっと降りて、風みたいに去ってった。


そのおかげで、ご両親のうち、お母さんだけが乗れて──

お父さんはその場に残されて。


で、だよ。


その時、彼女──真由美が、その去っていくサラリーマンを……

ものすごい熱視線で見送ってたんだ。


まるでヒーローでも見送るように。

恋に落ちたかってくらいに、目がハートだった。


……俺はそれを見てた。


いや、というか、俺はすでに彼女を見てたんだよ。

制服が似合ってて、髪がちょっと風になびいてて、

目がキラキラしてて、──たぶん、その瞬間にはもう一目惚れしてた。


でも、そんな彼女が、別の男にハートの目してんのを見て、

「ああ、ダメだ……」って、なんか負けた気分になった。


──けど。


「俺だって、できる」って、思ってしまった。


あの視線を……俺のものにしたかった。

バカみたいだけど、それだけだった。


だから俺は──バスのドアが閉まりかけたところに、思いきって言った。


「……俺、走っていけるんで、譲ります!」


乗ってたオバちゃんに変な顔されたけど、譲って、降りた。


そして、真由美のお父さんがバスに乗った。


真由美は……

一瞬、俺のことを見た。


あの目が、ほんの少しだけ──サラリーマンのときと同じ輝きだった気がした。

たぶん……気のせいじゃないと思う。


そして俺は、バスが走り去るのを見送って──

「マジで走るんかい」って自分にツッコミながら、ほんとに走って高校に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ