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第7話

 でもまぁ、このままでも可哀想だ。当て馬だって更生するチャンスくらいは与えられるべきよね。原作での悪役コンビのよしみでもあるし。

 膝をスッと折った私は、お姉さまの膝にすがりついている王子に向かって真剣にこう告げた。


「王子、老婆心ながら進言を。此度(こたび)のような態度を続けていれば、必ずや周りの者の心は離れていきます。王家に生まれた以上はその地位にふさわしい中身をお磨き下さい」

「ふ、不敬だぞ……」

「これを不敬と流すか、忠告と受け止めるかであなたの今後が決まると思って下さい」


 現在、エルラント王家にはカーダ王子の下に2人の王子と1人の姫が居る(原作だと、廃嫡されたカーダの代わりに王位を継ぐ役割だ)。真面目で優秀な彼らに継承者を取って代わられる可能性は十分にあり得るのだと、そう説明すると下半身王子はようやく自分の立場を自覚したようだ。


「そんな……中身を磨けって言ったって、今さらどうしたら……」


 その時、絶望しきった彼の手をそっと取る女神が居た。控えめにほほ笑んだお姉さまは、聖女にふさわしい慈悲深さで彼の全てを包み込んだ。


「大丈夫、自分の過ちを認められたあなたは十分にご立派です。カーダ様は芯から腐ってなどいません。そう気づけたあなただからこそ、心を入れ替えれば名君になれるとわたしは信じております」

「セシル……」

「人は変われるんです、わたしは見ていますから」


 うっ、まぶし……っ、後光が射してるわお姉さま! 後ろに窓があるせいだけど。タイミングばっちりに演出するなんて天も分かってるじゃない、いい仕事してるわ。

 惚けたようにポーっとそれを見上げる王子にハッとする。すかさず私はシュババッと間に割って入り、ビジネス然とした笑顔で釘を刺した。


「それじゃまず、悪いお仲間は切りましょうね~。あの遊び仲間の侯爵家の令息とか、実家が第二王子派ですから。あなたを堕落させる目的で近づいてるんですよ~」

「んな!? いやしかし、彼は身分を越えた真の友情だと……」

「真の友人が悪い遊びなんかに誘いますか! はい品格品格」

「ひィん」


 ***


 私のお小言+お姉さまの甘やかしという飴と鞭により、カーダ王子はそれからヒィヒィ言いながらも王となるための学び直しを頑張っているようだ。たまにズルしてるところは相変わらずみたいだけど。


 ある日の午後、聖女の神殿で祈りを捧げるお姉さまの横で、防御魔術の展開をしていた私は憤慨する。


「まったくもうっ、廊下で目が合うと『ゲぇ!?』みたいな顔をして逆方向に逃げ出すのよ? 失礼しちゃうっ」

「あはは……あの人も頑張ってるから、たまには優しくしてあげてね」

「はーい。えっと、ここと、ここと、ここも良しっと」


 拳を天に突き上げた私は、元気に今日の作業完了を報告した。


「よぉぉし今日も完っ璧! 魔物なんて一歩たりともこの街に踏み入らせないんだからっ」

「プリシラ、いつもありがとう」


 王都のタウンハウスに滞在してひと月ほど。私はすっかり『隠れ代行聖女』の役割が板についていた。

 シナリオ通り、聖痕は現れたものの能力が未覚醒のお姉さまは結界を上手く張れない。幼い頃からこうなることを予見していた私は、猛勉強して魔術の腕を磨いてきたのだ。

 思い返してみれば、かなり力技でここまで乗り切ってきた気がする。聖女の力量を判定するときは、測定する水晶玉を親族席から光らせて偽装したし、いま王都を覆っている結界もどきは、風の魔素を組んだ『全自動・魔物はじきシステム』だ。いまや私はこの国でも指折りの魔術師だろう。本当の力は隠してるからナイショだけど。


(それもこれも、全てはお姉さまのため……!)


 なんか、原作のプリシラが聖女を騙るためにやったことのスケールをでっかくして再現してる気がするけど、手柄は全部お姉さまにしてるから許されるよね!? だって、悲しむお姉さまとか見たくないし。


「……」


 頭の中で色々と言い訳をしていたその時、私はそのお姉さまが小さく肩を落としたのを見逃さなかった。よく見れば白玉のような肌の色が今日は何だか沈んでいて、あろうことか目元に少しだけ隈ができてしまっている。


「どうしたのお姉さま、悩み事?」

「え、ううん、なんでもないのよ」


 小さく笑った彼女は髪を耳にかける仕草をする。すかさず私は目をスっと細めた。


「ウソ。お姉さまは隠し事をするときに耳を触るクセがあるのよ、気づいてない?」

「えっ。うぅ、プリシラ鋭い……」


 観念したように眉を下げた彼女は、こちらに背を向けると祈りの神具をゆるゆると片付けながら白状した。


「実はね、昨日遅くまで聖女に関する資料を探していたの。先代たちはどのぐらいの力を持っていたかだとか、どんな方法を試していたかだとか。わたしだっていつまでもあなたに頼っていられないと思って特訓してたのよ。でも全然ダメで……」


 自嘲するようにアハハと笑みを浮かべていたお姉さまだけど、だんだんと俯いて手もパタリと落としてしまう。


「カーダ様も言ってたっけ。あなたの方がよっぽど、見た目も実力も聖女にふさわしいのに……どうして私に聖痕が出たんだろう」

「そんな……」

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