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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第46話

 ご褒美? パチリと瞬いた私は、間髪入れずに素直な願望を口にしていた。


「私、魔術の勉強をもっともっとしたいです! こちらに来てたくさん学ばせて貰いましたが、やっぱり本場は違いますね! みんなすごい熱心だし知識に対して貪欲っていうか、チャレンジ精神っていうか、協力しあってどんどんアイデアを出し合って開発してくっていうのが、もー本当に楽しくて楽しくて。それでいつか二国の懸け橋になれたらって思っ……て……」


 そこまで言ってしまってハッと我に返る。わ、私ってば、国のトップに対して何て口の利き方を……。

 サァァと血の気が引いていく音を聞いたその時、立ち上がったアルヴィスが軽く噴き出してこちらの肩に手を置いた。


「父上、彼女とはここまで行動を共にしてきましたが、これだけ魔術において稀有な才能を持つ者は他におりません。ぜひこの国で囲うべきかと」

「う、うむ、そのようだな。ククク……」


 ちょっ……なんでプルプルしてるんですか陛下! あと囲うってなに!?

 笑いすぎてにじむ涙を指先に乗せながら、陛下が何かをぼそっと呟いてから背筋を伸ばす。


「なるほど、確かにこの国に吹き込んできた春風のようだ……」

「え?」


 先ほども言われた気がする単語を聞き返す前に、陛下は再び声を張り上げる。


「此度の栄誉を称え、プリシラ・オルコットに『雪解けの春風』の称号を授ける!」


 ワァッと歓声が起こり、私は照れながらも口の端を上げて賞賛の拍手を受け取った。


「今後も、二国間の親交の証として活動してくれるかな?」

「はいっ、もちろん!」

「では我が息子アルヴィスとの婚約も?」

「はいっ! ……はい?」


 勢いよく返事したところで、何かおかしなことを言われたような気がして首を傾げる。目を開けると父と子は整った顔立ちを揃ってニッコリとさせていた。


「え、ちょ、婚約って」

「囲い込むのにはこれが一番だろう」

「さすがだな我が息子よ、実に合理的だ。ちなみに君のご両親にもすでに打診している、快く了承を頂けたよ」

「ほ、包囲網!!」


 薄々感じてたけど、この皇帝もアルヴィスに負けず劣らず厄介なのでは!? 根回しが完璧すぎ……外堀から埋められている!?


「え、あれ、お姉さまはなんて?」


 ふと思い、プリシラ過激派の斧聖女を思い浮かべる。すると一瞬笑顔のままで固まったアルヴィスはこちらの手をギュッと握りしめた。


「プリシラ、俺の気持ちを聞いてくれ」

「ごまかした! 今ごまかした!!」

「いいから聞け、俺の一世一代の告白だ」


 真剣な顔と声に胸が高鳴り、私は動きを止める。繋いだ手は少しだけ汗ばんでいて、柄にもなく彼が緊張していることが伝わってきた。


「幼い頃、声を届けてくれたあの時から俺は落とされていたんだ。楽しそうに魔術を操る横顔が好きだ、どんな逆境でも前を向いて歩き出す強さが好きだ。お前が俺を幸せにすると言ってくれたように、俺もお前を幸せにするため全てをかけると誓う」


 それは、まるでおとぎ話のような光景だった。前世で散々読んできた、小説のとびっきり甘い告白シーンのような。信じられないのは、その相手が私だということ。


(別に憧れてたわけじゃないけど、じゃあどうして)


 赤くなっているであろう頬を手で隠しながら、私は視線を逸らす。



(どうして……こんなに心臓がうるさいんだろう)



 ジッと見つめる視線に耐えかねて、私は少し拗ねたようにこう返した。


「ずるい……、どうして普段あんなに斜に構えてるくせに、こういう時はビックリするぐらいストレートなんですか……」

「悪いな、それだけ必死なんだ」


 スッと跪いたアルヴィスは、まっすぐにこちらを見上げる。紫の瞳は、ただ一心に私を映していた。静まり返った会場に、その一言が響く。


「俺と婚約してくれ、プリシラ」


 真剣な想いに胸の奥が掴まれたみたいにキュッとする。しばらく言葉を探していた私は、ふぅっと息をついて、苦笑を浮かべながらその手を握り返した。


「もうっ、仕方ないですね。押し切られてあげますよ」


 端正な顔立ちが、子どもみたいにパァァと輝いていく。それを見て思った。幼い頃の彼も、本当はこんな風にして笑う男の子だったんだろうな。

 落ち着いて考えられたのもそこまでだった。立ち上がった彼に名前を呼ばれながら抱きしめられた私は、抱き潰されんばかりの勢いに思考を止められていたから。



 その後も各功労者への表彰は続いた。

 スライムの魔力保持に協力してくれた学園の生徒たちもお褒めの言葉を賜ったし(ただし、チームγだけは反省しろと外されていたけれど)この場には居ない監獄塔の先輩たちへも栄誉が贈られた。

 エングレース学園長とシャロちゃんは、監督不届きの責任を重く見てか辞退したみたいだ。避難時の貢献度で言えばかなり上位に来ると思うんだけどな~、でも本人たちのプライドが許さないのかも。そういう高潔なところ、好き。


「これらのものに十分な栄誉と褒賞を与える。この国を救ってくれて本当に感謝する!」


 皇帝の締めの言葉で会場がワッと盛り上がる。いつの間にか隣にきたアルヴィスが満足げな表情でこう結論付けた。


「当初の目標だったコンテストは中止になったが、その何倍もの成果を手に入れた。全てが丸く収まり、めでたしめでたしだな」

「なに言ってるですか、これからですよ」


 腰に手をあてた私はふふんと笑って気合いを入れる。グッと胸の前で拳を握ると言った。


「一緒にできることを考えようって言ったじゃないですか。あのですね――」

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