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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第40話

 先端に取り付けた魔石は澄んだアイスブルーに染まり、チリチリと細かい霜が弾けている。その時、こちらに向かって攻撃を仕掛けてきた一本があった。私の頭目掛けてまっすぐ飛んできたそれを、アルヴィスが打ち払うように後ろから杖でスイングする。綺麗な氷のアーチを描き、初撃は私たちの右後ろへと逸れていった。けれども息つく暇もなく追撃が飛んでくる。


「回避します! 振り落とされないで下さいね!」

「任せとけ!」


 私の意のままに動くよう調整したホウキで、攻撃の隙間を見極めギリギリで回避していく。それでも捌き切れない分はアルヴィスがはたきおとす。そんな風にして私たちはだんだんと学園の屋上へと近づいていった。相変わらずガチガチに凍り付いた首都は氷の城そのもので、何者をも寄せ付けない迫力がある――けどっ!


(突破口を開く!)


 腰に下げたポーチから『プログラム済み』の魔石を取り出した私は、氷の蔦に頬をかすめられながらもそれを掲げた。


「起爆!」


 カッと赤く光ると同時に、爆弾を学園の屋上目掛けて投下する。着弾するとすさまじい閃光と熱が弾け、慌てて回避した私たちの背中を焦がした。


「ふぁ~、思ったより威力出ましたね……」

「やりすぎだ……術式は封印するか」


 あまりの威力に若干引きつつも、穴の空いた屋上に飛び降りる。そこから内部に侵入した私たちは慎重にチームγの研究室を目指していった。どこもかしこも分厚い氷に覆われた学び舎は、日中だと言うのにどこか薄暗い。いったん中に入ってしまえば攻勢は止み、不気味なまでの静けさに包まれていた。


「発生源は、南棟の3階だったな」

「はい」


 一時期とは言え、ここの生徒と臨時講師として在席していた私たちは迷うことなく階段を下りていく。けれども一歩降りるごとにビリビリとした威圧感プレッシャーが行く手から波のように押し寄せて来る。


「ひゃっ」

「おっと」


 薄暗い足元でズッと滑ってしまい、前のめりになったところで支えられる。


「あ、ありがとうございます」

「気を付けろよ。……階段を下りて右手に進み、数えて7本目と8本目の柱の間――ここだな」


 一見すると何の変哲もない壁をアルヴィスがさする。指先に宿らせた魔力を、チームの女の子に聞いていたパターンの通りに滑らせる。そっと手を離すとブゥンと静かに光り、氷に覆われた壁の一部にぽっかりと穴が開いていた。


「行こう」


 私も自分の杖を構え直し、彼の後をついていく。延々と続くと思われた通路の先に突然ほわりと自動感応式の光が灯った。長いトンネルを抜けると急に広い部屋に出て、私たちは目的としていた研究室にようやくたどり着いた。当然のようにここも凍り、あちこちに氷の山が出来ている。一気に温度が下がったように感じられ、私は白い息を吐きながらブルリと身を震わせた。


「それで、『氷晶のゆりかご』を書き込んだっていう魔石はどこに――」


 そう呟いたその瞬間、どこかでカタッという物音がした。即座に構えた私たちは霜の下りるデスクの向こう側を睨む。


「……」

「……」


 何が出るのかと張りつめた緊張が最高点に達した時、聞き覚えのある「にゃーん」という可愛い声が響いた。目を見張ると同時に、トッと現れた生き物が机の上で前足を揃えて座る。


「え……」

「た、タマ?」


 くしくしと顔を洗っているのは、あの夜、氷に捕まってしまったはずの私のペットだった。ふぁぁとあくびをした彼は、まん丸モフモフなボディでもう一度「にゃふ」と小さく鳴く。しまい忘れた舌が口の端からはみだしているのがこの場と不釣り合いすぎて、こっちはポカンとしてしまう。


「どうしてあなたがここに……」


 思わず一歩寄りかけた私を制して、アルヴィスが低い声を出す。


「そうか、監獄塔に居たお前なら、俺の部屋からゆりかごの図式を盗み出すのも簡単だよな」

「え?」


 ただの猫に話しかけるにしては、意図を持った問いかけだった。まるで、タマがわたしたちの言葉を理解できるみたいな……。彼はそのまま詰問を続ける。


「思えば生まれからして不自然すぎた。再現性のない生命体? 俺たちが読み解けない術式なんてあってたまるか」


 それに、と続けた彼の言葉に、私は目を見開く。


「何よりも決定的なのは、その違和感を俺たちが今この瞬間まで“認識”できなかったことだ。お前が黒幕か」


 い……われてみればそうだ、どうして私たちはタマの事をあんなに()()()()()受け入れていたんだろう? 私は、私たち監獄塔のみんなは知らない技術をまっさきに解明するのを生きがいとしているのに。

 そうだ、レスノゥ様と関わりを持つきっかけになったのもこの子だった。そこからシャロちゃんに目を付けられて、仲良くなって――そう、それはあたかも【ご都合主義的】に物語を進めるように。

 薄ら寒い物を覚えた私は、震える声で尋ねる。


「あ、あなたはいったい……」


 短い前足をペロペロとなめていたタマは、顔を真正面に上げるとヒゲをピンと立てる。まんまるの瞳孔をこちらにひたと据え、口を開く。



『タマは かみさまのたまご かみたま』

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…………ポカーン。 ええええええええええええええぇ⁉!Σ( ̄□ ̄;)
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