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第4話

 さてと、オルコット家の家庭環境はもう大丈夫だろう。最近では愛する家族のため! と、お父さまも領地経営を頑張ってるし、お母さまも相変わらずツンツンしてはいるものの、デレが多くなって屋敷の中もほほ笑ましい雰囲気になってきている。まぁそれもこれも、この超絶ラブリーキュートなプリシラちゃんが人知れず奔走してるおかげなんだけどね! いやほんと、幼女にしては頑張ってると思う私。


(だけど、ここで慢心しちゃいけないわ)


 仲良し家族でこのまま平和にいけるなら良いんだけど、そう楽観的になるには原作小説の存在がチラつくのだ。悪役義妹が今から準備できる事って何かしら……。


「力が……力が欲しい」


 自作の『予言書』を眺めながらブツブツと唸っていた私に、部屋を覗いたお姉さまが声をかけてくれる。


「プリシラ、今夜は星が綺麗よ。上に出て一緒に星詠みしてみない?」

「わーい、すぐ行く~!」

「ふふ、冷えるから上掛けを持ってきてね」


 一も二もなくお返事して、毛布を引きずりながらお屋敷の屋上に出る。大好きなお姉さまにピトッとくっつきながら星の瞬きを追うと、私たちには数奇な運命が待ち受けているとのお告げが降りてきた。素人詠みだから信憑性は怪しいけれど、たぶん当たっている。不安を隠そうと、私は指をからめてギュッと握った。


「お姉さまあのね、私ずっと一人っ子だったから、お姉さまと姉妹になれて本当に嬉しいの」

「わたしもよ、こんなに可愛い妹が出来るなんて思いもしなかったわ」

「ずっと……仲良くしてね」

「当たり前でしょ」


 そこにはいずれ断罪されないようにとの下心があったかもしれない。いつか、こんな気持ちもなく笑い合えたらいいのにな。


「あら?」


 ふとその時、風に乗ってどこからかキラキラとした金色の光が飛んできた。お姉さまの指先に留まってはふわりとほどけ、私の顔周りを儚い霞のようにただよう。


「何かしらこれ? 綺麗ね」

「ほんと、妖精みたい」


 私の言葉に、あぁと呟いたお姉さまは、その正体についてこう推測した。


「この近くに、光を出して一生を終える虫がいるのよ、これはきっとその残り火ね。さぁ、もうだいぶ冷えて来たわ、風邪をひく前に中に入りましょ」

「はぁ……い?」


 それでも後を追う様についてきた光が気になった私は、毛布でバサリとそれらを捕まえると部屋まで持ち帰った。机の上に広げてみると、なんだか文字の断片のように見えなくもない。


(何かのメッセージ?)


 何となく気になって指先で寄り合わせていく。途中でピースがだいぶ無くなってしまったのか、ようやく読みとれた文字は何だか悲痛な単語ばかりだった。


 ――くるしい かなしい どうしてだろう

 ――もう死んでしまいたい


「……」


 さすがにこれを家の人に報告するのは気が引ける。でも死んでしまいたい、か。


(私はもうちょっと生きていたかったよ)


 前世で泣いてくれた家族の顔が思い出される。きっとこの送り主は孤独の中に居て、誰にも相談できない状況なんだろう。だからこんな魔法みたいな手紙で想いをどこかへ解き放った。誰かに聞いて欲しくて、誰かに届いて欲しくて。


「……お返事書けないかな」


 私はなんにもできないけれど、あなたの嘆きを確かに受け取った人物がいるよと伝えたかった。だからここをほら、こうやってこねくり回したら――このっ、このっ。


「できた!」


 粘土をこねるみたいにできた文字はたったの一文。窓を開けてそっと『きこえたよ』の光を夜空に向かって放つと、小梢の向こうに飛んでいっ……あ、一文字落ちた。


「届くかなぁ、難しいだろうなぁ」


 半ばダメ元でため息をつきながら窓を閉める。ちょっとした思い付きで魔術の移動回流を逆にしてみたけど、送り主の元に帰っていく保証なんてどこにもない。私がもっと魔術を極めていたら違ったかもしれないけど。


(魔術を極める?)


 ベッドに潜り込んだ私はカッと目を開く。慌ててデスクの『予言書』を取りに起きると、ヒロインが婚約破棄される辺りの項目が目に入った。


 ・プリシラは魔術の小細工で真の聖女を騙り、セシルからその座を奪う。


「あ……これだ」


 そうよ、プリシラは少しだけかもしれないけど魔術の才能があった。ということはだ、今のうちから極めていけば、聖女の助力になれるんじゃないの?


「そうよ、それしかない!」


 ありがとう! 謎の光メッセージの送り主。あなたのおかげで身の振り方が決まったかもしれない!



 翌日から私は、淑女の授業もそこそこに魔術にのめり込んでいった。


「おとーさま! 隣国から魔術に関する書を取り寄せて頂きたいのです!」

「おぉ、なんだなんだ。プリシラは魔術なんか学びたいのか? 変わってるなぁ」


 この国は聖女の加護があるので、魔術を学ぼうとする人はそんなにいない。特に女の子ともなるとなおさらだ。そういった研究が進んでいるのは、どちらかと言うとお隣の帝国らしい。

 すっかり私にダダ甘なお父さまは、へにゃへにゃと相好を崩しながらこう勧めてくれる。


「なんだったら、家庭教師でもつけようか?」

「いえ、まずは独学でやってみたいと思うのです。レディが魔術なんて、世間に知られたら笑われてしまいますわ」


 悪役回避を目指す私としてはあんまり目立ちたくないのだ。極めるなら密やかに。だから最初は取り寄せて貰った『絵で分かる!はじめての魔術』シリーズから始めることにしたのだけど……。


「なんかちょっと……面白いかも」

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