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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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38/48

第38話

 ピリリと緊張を含んだ感覚が肌の表面を撫でていく。笑い飛ばさなければと思うのに言葉が上手く出てこない。紫の瞳が私を見つめている。まるで心の奥底まで射抜くような、深い眼差しだった。


「お前自身も何か感づいているんじゃないのか。それで浮かない顔つきをしている、違うか」

「それ……は」


 口ごもる私の前まで来た彼はスッと手を差し伸べる。


「何か抱えているのなら、俺に話してくれないか」


(いえるわけ、ない)


 だって、それを話してしまったら、嫌な気分になったり、とてつもなく哀しい気持ちにならないだろうか。


 この世界が、物語の中かもしれないなんて。


 自分の声が、見た目が、考え方や性格までが――全部が誰かに設定された作り物なのかもしれない。


存在意義アイデンティティの喪失。上位存在が居るかもしれないという認識。私なら、知りたくなかったって思う……)


 何を中二病みたいな事をって、笑い飛ばさなきゃ。

 だけど私は、気づけば目の前に差し出されていた手をそっと両手で掴んでいた。氷を操るクセにそれは大きくてとても温かくて、なんだか泣きたくなってしまう。暗い海を彷徨う最中、灯台の光を見つけられたような気分って、こうなのかな。目を伏せた私は、震える声で囁くように問いかけた。


「これから私が話す事も、与太話だと笑い飛ばしてくれても構わないです」

「……」

「アルヴィスは……転生って、信じますか?」


 手近なベンチを探して二人でかけると、それまで一人で抱えていた秘密が、知らず知らずのうちに口からこぼれ落ちていく。


 私にはこの世界に産まれ落ちる前の記憶があり、地球の日本という場所で暮らしていたこと。

 そこで読んでいた物語に、この世界が酷似していること。

 私はそのストーリーの悪役で、話を捻じ曲げて立場から抜け出そうともがいてきたこと。


 全てを話し終えると、アルヴィスは意外にもどこか腑に落ちた様子でこう返してきた。


「あぁ、だからあんな突飛な出会いを」

「はい。アレもお姉さまを聖女に覚醒させるために、本来のヒーローであるあなたの力が必要だと思ったから……」

「なるほど、俺とあの聖女が『一目会うだけで確実に恋に落ちる』か」

「そっ、んなことも、言いましたねぇ」


 今思うと、なんて身勝手な行いをしていたのだろうと自分に呆れてしまう。シナリオから逃れようとしたくせに、その話の設定に縋ろうだなんて。はぁぁーと傾いだ私は呟く。


「……私は、お姉さまの立場を乗っ取って、『主人公』に成り代わってしまった。前世を思い出して行動したあの時から、お母さまに紅茶をぶちまけた時点で、この話は私を中心に描かれる物に変わったんじゃないかと、」


 そうだ……どうして気づかなかったんだろう、今こうしているやり取りも、誰かが天から覗いているのかもしれない。お話を読むように、何を考えているかさえ、見透かされていて――?


「やめてよ、見ないでよ……」

「プリシラ?」


 ねぇ、もしそうなら今画面の前に居る“あなた”は何を思っているの? ずっと、ここまで読んできたんでしょ? 病院のベッドの上で読んでいたあの時の私みたいに。


 ぶるりと身を震わせた私は、自分の身を抱えるように肩に手を回した。


「メタすぎる……。この世界って誰かの監視下にある『箱庭』じゃないの?」

「おい、」

「その神サマが気に食わない行動を私が取ってしまったら、5秒後には世界がすり潰されたり」


 その可能性に気づいた瞬間、私は一気に恐怖に呑まれるような感覚に襲われた。

 失敗できない、最強無敵のキラキラヒロインらしく振舞わなければ。ほら、あの時読んでいたたくさんの物語の主人公のように。でも、


「で、できるかな……? 結局、私って主役を横取りした悪者だし、もしかしたら今までの清算で、どん底に叩き落されるんじゃ」


 ダメだ、こんなこと考えている時点で主人公らしくない。

 もはやうわ言のように繰り返すしかない私は、完璧に自分の殻に閉じこもっていた。


「ごめんなさい……みんなを巻き込んでしまっ――」


 頭を抱えて叫びそうになったその時、ふいに私は肩を掴まれた。グイと強制的に視線を上げさせられると、神秘的な紫がまっすぐにこちらを覗き込んでいた。


「しっかりしろ、与太話なんだろ!」


 彼が隣にいることをすっかり忘れていた私は、何度か瞬きをする。もう片方の肩も掴まれ、正面から向かい合う形にさせられる。


「まだそうと決まったわけじゃない、仮にそうだとしても、プリシラに何のケチがつく。今までお前がやってきたことは、神様とやらに叱られるようなことだったのか?」


 勢いに気圧されて、これまでの思い出が駆け巡っていった。涙目でも綺麗に笑って「ありがとう」と言うお姉さま、驚いたようにこちらを見上げるアルヴィス、はにかんだように笑う監獄塔のみんな、怒ったように頬を染めるシャロちゃん……。それでも、私は縮こまりながら小さく呟く。


「あ、悪役を放棄して、成り代わった……」

「俺はそうは思わない、お前の行動力で救われた者が何人いると思う」


 彼はこちらの手を掴むと、自分の胸にあてさせた。トクトクと確かな鼓動が伝わってくる。


「ここにもほら、一人」

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― 新着の感想 ―
あれ?これ、ほのぼのだったよね?ホラーだったか? ゾッとしたんだけど……
「まだそうと決まったわけじゃない、仮にそうだとしても、プリシラに何のケチがつく。今までお前がやってきたことは、神様とやらに叱られるようなことだったのか?」 良いぞもっと言え
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