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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第35話

 南の正門近くには、仮の拠点テントが設営されていた。ここで帰ってきたスライムを回収し、魔力の心得がある者たちがバッテリーに充填していく。メンテナンスもここで行う予定だ。ひとまずの包囲網は完成。これでしばらくは時間が稼げる。

 ただ、これでは根本的な解決にはならない……やっぱりこの状況をどうにかするには発生源から何とかしないと。中に捕らえられている人たちもどうなってるか分からないし。


(でも、これからどうしよう。こんな草っぱらじゃ方法を考えるにも……)


 まともな生活もできない中でどこまでやれるだろう。正直、そろそろ気力が限界だ。アドレナリン全開で徹夜してきたけれど、それもそろそろ切れてきたみたいで眠たくてしょうがない。ふかふかのベッドが恋しいよぉ。


「そ、そうだ、スライムを一か所に集めてベッドにしたら……」

「おやめなさい、国を救う英雄が陸で溺死したら目もあてられませんわ」

「うわーん」


 シャロちゃんにストップをかけられて情けない声をあげる。やだやだ、喉かわいた、お腹すいた、体も冷えたし熱々のお風呂に入りたいよーっ!


「ん?」


 その時、少し離れた位置に設置した一般市民の避難所が何やら騒がしいことに気づく。ピリピリと張りつめたような魔力のぶつかり合いも空気中に感じられて、私たちは顔を見合わせた。な、何事!?



 慌てて駆け付けた私たちは、そこでとんでもないものを見る事になった。

 市民への顔見せでそちらに行っていたはずのアルヴィスが、油断なく身構えて誰かと対峙している。その視線の先を追った私は思わず「あっ」と声をあげた。


「あの子に何かあったのは分かってるんだから、隠すと為にならないわよ!」


 懐かしい声が夜明けの草原に高らかに響く。それに対して怒鳴られている張本人は頭を抱えながらこう返した。


「だから少しは話を聞けと……」

「ああああ、やっぱりあなたなんかに任せるんじゃなかったわ! 処す! この場で処してやるぅ!」


 神々しい白い衣装に身を包んだその人は、可憐で華奢な風貌にそぐわない『斧』をその手に構えていた。薄茶のロングヘアに若草色の瞳を切れそうなほど吊り上げている彼女は――、


「お姉さま!?」


 呼びかけると隣国の聖女はピタッと動きを止めた。視線をこちらに上げると、美少女ヒロインフェイスがみるみる内にパァァと輝いていく。手斧をブン投げるとこちらに駆け寄ってきて、ぎゅうううと苦しいほどに抱きしめられた。


「プリシラプリシラプリシラぁぁぁ~~、よかった無事だったのね。守りの護符が発動したから心配したのよ!」

「あ、なるほどそれで」


 氷の蔦からの攻撃を防いでくれた時に、自動でそちらに通知がいく仕組みだったようだ。聖女スキルすご~と感心していると、カポカポと複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。7、8頭ほどの白馬に乗っているのは騎士服を着た集団で、その先頭にいた人物は馬上からこちらを見下ろすとフッと口の端にカッコつけた笑みを浮かべる。


「久しいな、プリシラ。息災であったか」

「……誰?」


 私が小首を傾げながらとぼけると、その人は期待通りにガクッと肩を落とした。涙目で顔を上げ、自分を指しながらあわれっぽく訴える。


「僕だ僕! カーダ・エルラント!!」

「ああ! お姉さまと婚約してるのにも関わらず、私にちょっかいかけて撃退されたエルラントの王子様じゃないですか。すぐには分かりませんでしたよ~」


 からかうように言うと、ぐぬぬと恨みがましい目で見られてしまった。お姉さまも隣でクスクスと笑っている。


「まったく……君は相変わらずだな」

「やー、実際見違えましたよ。風格みたいなの出てきましたね」


 お世辞なんかじゃなく、馬から降りたカーダ王子はあの時よりしっかりして見えた。昔の話はよしてくれとバツが悪そうな顔をした彼はお姉さまの隣に立つとその肩に手を置いた。


「真夜中にセシルが飛び起きて、一人でもこちらの国に行くと騒ぐものだから僕がついてきたのさ。非公式な訪問だからただの旅人として扱ってくれて構わない。しかしこれは……?」


 カチンカチンに凍ってしまったフロストヴェインの首都を見たら、そんな困惑した表情にもなるだろう。そこでスッと進み出てきたアルヴィスが話の輪に入ってきた。


「訪問を歓迎する、カーダ王子に聖女セシル。それに関しては俺から説明しよう」



 学園の生徒たちの失敗により、氷の魔術が暴走して外に広がってきていること。応急処置ではあるが、魔術で作ったスライム隊でなんとか抑える事に成功したこと。次は、避難した住民たちをどうしようか考えていること。

 それらの事情を説明し終えると、二人は驚きながらも事態を呑み込んでくれたようだった。まぁと口に手をあてたお姉さまが気の毒そうに眉を下げる。


「そんな事になっていたなんて……怪我をした人が居るならわたしが治すわ」


 守りと癒しを得意とする聖女が来てくれたのは心強い。一つ頷いたカーダ王子は、公爵とアルヴィスに向かってテキパキと申し出た。


「隣国の窮地だ、もしよければ我が国で支援をさせて貰えないだろうか? 難民を受け入れられるよう父上に掛け合ってみよう」

「ど、どうしてそこまで……」

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