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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第34話

「お父様、でもっ」


 シャロちゃんが何か言いかけようとするのだけど、その前にアルヴィスが動いた。

 スッと進み出てきた彼は学園長の前まで進むと真正面からその視線を受け止めた。落ち着いた声でこう返す。


「エングレース公爵。そんなプライドを優先させる状況でないことは、あなたが一番よく分かっているはずだ」

「……」


 お互いに睨み合い沈黙が下りる。いったいどうなるのかとたっぷり考えるほどの時間が過ぎた後、アルヴィスが突然驚きの行動に出た。スッと膝を着いた第一皇子は、それまで対峙していた公爵の前に頭を垂れたのだ。どよっと動揺が広がる中、彼はよく通る声でこう言う。


「俺は正式な継承者ではないから貴方に命令を下すことは出来ない。だが国を想う気持ちに平民も貴族もないはずだ。だから頼む、力を貸してくれないか」

「……」


 誰もが固唾を呑んで見守る中、観念したように目を閉じた学園長は、同じように地面に膝を着くとアルヴィスの肩にそっと手を差し伸べた。


「……どうか顔をお上げ下さいアルヴィス様。悔しいが、この状況をどうにかできるのは監獄塔――いや、第二研究所とその研究員たちしかいないようだ。我が第一研究所もどうか、手伝わせて欲しい」


 その言葉に、こちら側だけではなく学園側からもワッと歓声が上がる。立ち上がったアルヴィスの前に今度は公爵が逆に跪き、過去の謝罪をした。


「アルヴィス様、貴族の権力争いに幼いあなたを巻き込んでしまい申し訳なかった。そんな過去を流し、民を想って私に頭を下げることのできるあなたは間違いなく王族の器です、この場はあなたの指示に従いましょう」

「ああ、ありがとう」


 しっかりと固い握手を交わした二人の所長は、それぞれの部下に指示を出すため動き始める。その後をてててと追いかけて行った私はにっこり笑顔を浮かべていた。


「やりましたね殿下!」

「まぁな、こういうやり取りを皆に見せておけば双方の株が下がることも無い。それに気づいたからあっちも応じてきたんだ。さすがだな」

「へっ?」


 今のってその……、このピンチをお互い協力して乗り越えようぜ!(ガシッ)的な熱い感動シーンじゃなかったの?

 そんな考えが顔に出ていたんだろう、こちらをチラッと見降ろしたアルヴィスは仕方のなさそうな笑みを浮かべると頭に手を置いてきた。


「トップには色々とややこしい駆け引きがあるんだよ」

「……難しいなぁ」


 上に立つ人の考えはよく分からない……と、難しい顔をして呟くと、ぷはっと笑った彼はこう続けた。


「いいんだよ、プリシラはそのままで。そういうのは俺が担当」

「馬鹿にしてません~~??」

「するわけないだろ、そのままでいてくれ」

「?」


 そのままグシャグシャとかき乱してくるものだから、私はもがきながら呻く。ようやく解放されたので横を見上げると、どこかふっきれたような清々しい表情をアルヴィスは浮かべていた。


「色々あったけど、公爵も難しい立場だったんだ。大人になった今ならそう言える」

「うん、あなたがそう思えるなら、それでいいと思います」


 どこか安心しながら素直に答えると、紫の瞳を細めた皇子は口の端を吊り上げながら手を広げる。


「しかしなんだ、話してみたら交渉相手としては話が早くて助かる。やり易くていい相手じゃないか」


 だけど、そこで少しだけ遠い目をすると、独り言のように小さく続けた。


「俺が監獄塔から出てきた時も、意地を張らずに俺から対話していれば良かったのかもな。公爵だけじゃない、父上とも、レスノゥとも……」

「殿下……」

「……さっ、そんなことより」


 声の調子を変え、空気を塗り替えるように彼は振り向いた。ニッと笑うと手を構える。


「ここからが正念場だ。頼むぞ監獄塔のエース」


 学園の協力を取りつけたとは言え、まだまだ調整が必要なとこはある。一度瞬いた私は同じように笑い返すと思いきり掌を打ち付ける。小気味よい音が夜の空に弾けた。


「もちろんですよ、任せて下さい!」


 ***


 夜通しの作業は続き、うっすらと東の空が白んでくる。

 正門に立った私たちは、それぞれ一抱えもあるスライムをそっと順番に放していく。城壁の内側に沿って走り出したそれらは、這っていた氷の蔦を乗り越え『分解』を発動させる。ブルリと震えた蔦は、まるで供給が切れたようにそこから先がパラパラと崩れていった。それを見た私たちは歓声をあげる。


「すごいすごい! 本当にうまく行きました!!」


 私の隣で興奮したようにぴょんぴょんと跳ねていたチームγの子が、頬を紅潮させて瞳を尊敬に輝かせる。


「監獄塔に持ってたイメージが変わりました、こんなことが出来るなんて……!」

「え、えへへ、そうかなぁ……」


 いつの間にかフードを取り去った監獄塔の先輩たちも、一緒に窮地を乗り越えた仲だからか人見知りも発動せずに照れたように頭を掻いている。そんなやりとりがあちこちで行われていた。

 そんな和やかな空気を引き締めるように、シャロちゃんが手を打ち鳴らして注目を集める。


「はいはい、ボヤボヤしている暇はありませんわよ。今行った先発隊が戻ってくる前に、次のスライムに魔力を充填しておきませんと」

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