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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第29話

 ほとんど確信をもって問いかけると、彼は静かに目を閉じて一度だけ頷いた。


「そうさ、決められない俺は、お前に賭けたんだ」

「……」

「結局俺は、やり場のない鬱憤を貴族階級にぶつけているだけなのかもしれない。母上にとって俺は道具でしかなかったんじゃないかとか、それでもやっぱり塔に追いやってくれたエングレース公爵が憎いし、そもそも原因になったレスノゥが生まれて来たこと事が憎いような気もする。でも国を混乱に陥れることを考えると、計画を進めて良いのかと迷う。そういうのが全部混ざり合って、何だかもうぐちゃぐちゃなんだ……自分がどうしたいのかも分からない……」


 そのまま両手で頭を抱えるように前のめりになってしまう。自嘲するような色を含んだ声が、その口からぽつりと落とされた。


「情けないな」


 それを聞いて口をギュッと引き結んだ私は、横から彼の頭を掴んで強制的にこちらに向かせた。驚いたように紫の瞳が揺れる。それをまっすぐに見ながら、私はずっと心の中で温めていた想いを宣言した。


「決めた、私があなたを幸せにしてみせる」

「なっ、」


 驚愕の色を浮かべた彼の頬にパッと朱が散る。それもお構いなしに私は見つめ続けた。

 アルヴィスは、『復讐を成し遂げなければ』という筋書きに憑りつかれている。そうでなければ、出自に振り回されたことも、お母さまを自らの手で氷漬けにしたことも、何の意味も無いことになってしまうから。一度走り出してしまった以上、自分では止められないのだろう。そうして暗闇の中で進むべき方向を見失い、彷徨っている。


 なら私が手を引けばいい。彼が私の言葉が光だと言ってくれたように、私が導けばいいんだ。


「理由付けのために悪役なんかになろうとしないで、これまでの人生に意味を見出したいって言うなら、どうせなら光の方へ行きましょうよ」

「どうせなら、って」


 うん、そうだ。悪役なんて居なくて済むような世界にしてみせるって、あの時に誓ったもんね。

 彼の頬から手を離した私は、拳を握って前のめりになりながらこう提案する。


「やっぱりコンテストには出場しましょう。そうして認められて、そこから自分も周りもみんなが幸せになっていくにはどうしたら良いか考えたらいいと思うんです」


 ニッと笑った私は、立ち上がりまるで踊るように両手を広げてくるりと半回転する。


「その道のりは『復讐して終わり』より困難かもしれない。だけど理想は高いほうがいい、一人じゃない、二人ならどんな夢物語だって実現できる気がしてきませんか?」


 私に何の力があるのかっていうと首をひねるところがあるけれど、今はとにかく彼の気持ちをこっちに引っ張ることが大事なのだ。魔術の腕前にはちょっと自信があるし、多少は力になれると思いますよ? 大事なのは前向きさ、多少の失敗はご愛嬌。うんうん、人生なんとかなるなる。

 後ろで手を組んだ私は、流れる風に髪を弄ばれながら力強く笑った。


「私が居ます、アルヴィス。お母さんを見捨てられなかった、やり場のない鬱憤をぶつけるのにもためらう、そんな優しいあなたが傷つかなくて済むような世界に私はしてみたい」

「プリシラ……」

「監獄塔のみんなを解放してあげたいっていうのも本心でしょう? でなければ食事まで自分で用意して面倒なんて見てあげないはずだもの。それにあんなに好かれているし」

「いやあれは自分のついでに……。……そうなのか?」

「そういうことにしておきましょう! 思い込み、大事!」


 バッと両手を大げさに広げながら言うと、しばらくあっけにとられたように私を見つめていた彼はプハッと笑ってくれた。憑き物が落ちたみたいにケラケラと笑いだす様子に、今度はこっちがポカンとしてしまう。


「めちゃくちゃだよお前。感情的な理想論ばっかで何一つ計画性がない、綺麗ごとばっか吐いてりゃ俺が心動かされて乗ってくるとでも? 独善的すぎないか」

「だから、何をするかはこれから二人で考えていこうっていうんですよ。なんですか独善的って、私はただ――」


 立ち上がったアルヴィスはこちらに寄ってくる。手を伸ばすと風で乱れた私の髪の毛を直してくれた。ゆるやかに笑うその顔は、どこか心の余裕を感じさせてこれまでとはちょっと違って見えた。カッコいい、よねぇ、やっぱり。


「なぁ、お前さ、いま自分がプロポーズした自覚ある?」

「プロポ……えぁっ!?」


 いきなりとんでもないことを言われてヘンな声が出てしまう。あわあわと口ごもるこちらを面白そうに見下ろしながら、彼は手にしたままだった私の髪の毛を離さずつんと引っ張った。ニヤッと意地悪そうに笑ってこう言う。


「『私があなたを幸せにする』だなんて、口説き文句以外の何物でもないだろう」

「そっ、それは、そういうつもりじゃ――」

「……違うのか?」


 急に捨てられそうな子犬みたいな顔をするものだから、私はうっと詰まってしまう。

 なぜだか違うと突っぱねることもできず、口を馬鹿みたいにパクパクすることしかできない。そんな私を見る彼の目つきが愛おしいものでも見るように細められる。


「プリシラ、俺はこれまでの人生何一つ望んでこなかった。そんな俺が初めて手に入れたいと思った物がなんだか分かるか」

「え、ぁ」


 髪を離したアルヴィスの手が、今度は私の手を優しく取り上げる。真剣な顔をする彼は少しだけ緊張を含んでいた。空気が揺れて、鼓膜を揺らす。


「プリシラ、俺と――」

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