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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第27話

 けれども、すぐにいつもの皮肉気な笑みを浮かべて本心を覆い隠してしまう。彼が指をピッと引き切る仕草をすると、光は一瞬で霧散してしまった。


「ずいぶん気安く踏み込んでくるじゃないか。それで? 話を聞いた上で俺が大悪党だったらどうするんだ、見逃してくれるのか?」

「ごちゃごちゃうるさいんですよ、この意地っ張り。そんなこと聞いた上で判断します。聞かなきゃ何も始まらないの」


 いい加減、敬うのもめんどくさくなってきた私は、立ち上がって彼の正面に回り怒ったように腰に手をあてる。


「誰かを求めていなければ、あんなSOSを流したりしないでしょ。あなたが悪人でないというのなら私は味方。どんな手を使ってでも隣に立ち続ける」


 彼の目の前に右手を差し伸べる。同じ目線に立ちたいと、私は初めて彼の名を呼び捨てた。



「あなたの声を聞かせてアルヴィス。救いを求めてくれたのなら、私は絶対にその手を離したりしないから」



 完璧ヒーローの顔が、なんとなくおかしな具合に歪む。面食らったようにしばらくその表情で固まっていた彼は、やがて地の底まで這うようなため息をつくと頭を抱えて前のめりになってしまった。その膝から落ちかけたタマが慌てて逃げ、やがて観念したような低い声がうめくように聞こえて来る。


「お前……どれだけ男前なんだ」

「え、そうですか?」


 照れた私は頭を掻く。イケメンにイケメンって言われるとなんだかこそばゆい。悪役義妹のプリシラはあざと可愛い系のはずなんだけど。


「えへへ、こうなったらカッコいいヒーローを目指しましょうか」

「俺の矜持を犠牲にか」

「ふふん、惚れてもいいんですよ?」


 おどけてそう言うと、どこかすねたような目つきで睨まれてしまった。それがなんだか素の表情っぽくて嬉しくなる。冗談だと茶化しながら手を下ろそうとしたところで手首を掴まれた。


「わっ!?」


 グイと引っ張られ鼓動が跳ねる。けれども、彼は私の向きを反転させて自分の隣に座らせただけだった。だ、抱きしめられるかと思った……。

 ドギマギする私をよそに、どこかふっきれたように前方を見やるアルヴィスは口を開く。


「長い話になる、途中で嫌になったら寝たふりでもしてくれ。……出鼻を挫くようで悪いが、俺は本当に悪寄りの人間だと思うぞ」


 本当に悪い人は、自分のことを悪人だなんて言わないと思うけど……。心の中でそう思ったけど話を遮るのも悪い気がしたので無言で続きを促す。すると彼は、俯き加減でこちらが危惧していたことを打ち明けた。


「お察しの通り、俺は監獄塔のあいつらを口実に、この国の平民に至るまで魔術を広めて混乱を引き起こそうとしている。それによって一部の貴族階級の失墜を狙っているというのが正しいか」

「それは、復讐のため……? お母さまの」


 聞いていた情報を元に少しだけ踏み込んでみる。アルヴィスは感傷に浸るでもなく、少し遠い目でこう返してきた。


「どうだろう、今となっては分からない……。弟が、レスノゥが生まれるまでは本当に幸せな日々を送っていたんだ」



 そこから聞いた話は、シャロちゃんから聞いたのとだいたい同じだった。皇子が生まれない正妃に代わり、側妃がその立場に成り代わり下克上を狙った。けれども予定外に生まれたレスノゥ様が正当な跡継ぎとなり、その野望は無に帰してしまった。

 大人になった今ならわかる。と、彼は語った。自分は生まれながらにひたすらややこしい存在だったのだと、語る口調はどこか他人事のようで。


「もともと母上は皇王と約束していたんだ。『もし正妃に皇子が生まれなければ』という条件での第一継承者だった」


 それでもアルヴィスのお母様は食い下がった。自分の息子の方が優秀だからと、なんとか周囲に認めさせようと画策をした。それは不穏な争いを生み出しかけ宮殿は荒れた。そんなピリピリとした一触即発の雰囲気を重く見たのが、正妃派筆頭のエングレース公爵閣下だったらしい。


「これ以上は国の為にならないと、皇王から密かに命を下されたらしい。結果、母上はレスノゥ暗殺を疑われ捕らえられた」


 やっぱり、暗殺未遂はでっち上げの仕組まれたことだったんだ。怒りに顔を強ばらせる私を見ていた彼は、苦笑しながらそれをなだめた。


「そんなに憤らなくていい。後から調べて分かったんだが、母上は本当にレスノゥ暗殺の計画を進めていたらしいんだ。実行に移す直前で、その証拠を先回りで抑えられたと」

「えぇ……」


 もう、ドロドロしすぎて目も当てられない。なんと言ったらいいのか……言葉を探していると、アルヴィスは後ろに手をつき、月が輝く夜空を仰いだ。


「俺自身に罪はないとされたが、母上が俺を離してくれなかった。監獄塔に幽閉され、あの人は……少しおかしくなってしまったんだ。夢破れた後でも、俺が国一番の魔術の才能を秘めていると信じて疑わず、自分の持つ知識をひたすら俺に詰め込もうとしてきた」


 ここでこちらにチラリと視線を寄こした彼は、どこか切なそうに笑った。


「プリシラは、本当に楽しそうに魔術を組み上げるよな。でも俺はさ……本当は魔術なんか好きでも何でもないんだ。ただ母親の期待に応えたくて、必死になっていただけ」


 誰も見に来ない監獄塔で、母と子の授業は続いた。上手く魔術を組めないとヒステリックに泣き叫ばれ、散々叩かれた後で我に返った母に泣きながら「ごめんね」と抱きしめられて……。そう語る彼の言葉の端々は少しだけ揺らいでいた。


「今思えば、依存されていたんだと、思う」

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