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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第25話

「シャロちゃんは……アルヴィス殿下のことを知っている?」

「え?」


 こちらに振り向いた彼女に肉薄する勢いで、私はグイと迫る。小さく悲鳴を上げた公爵令嬢は、その名を復唱しながら首を傾げた。


「アルヴィス様って、レスノゥ殿下の兄上の?」

「そう、幼少期に何があったとか、どういった立場なのかとか」


 真剣なこちらの様子に驚いた様子だったけど、視線を逸らしながらどこか気まずそうな表情を浮かべる。それを見て私は何かあると確信した。


「お願い! どうしても知らなきゃいけないの」

「ちょっ、静かになさい」


 この辺りで注目が集まり始めたので、焦った彼女に連れられて図書室を後にする。人気のない廊下の隅まで来るとようやく息をついて振り返った。


「まったく、どうしたのよ急に」


 それには答えずジッと目で訴えかける。しばらく見つめ続けていると、根負けしたかのようにシャロちゃんは肩を落とした。


「本当に何か訳アリのようですわね、わたくしも詳しくは知らないのだけど……それでもいい?」

「うん、お願い」


 他言無用よ。と小さく呟いた彼女は、何から話したものかと考えを巡らせるように宙に視線を彷徨わせた。


「あの方はええと……生まれからして非常に複雑な立場でいらっしゃるの。二人の皇子が腹違いなのは知っていた?」


 初めて聞く話に私は声を失う。ここでグッと身を屈めて来たシャロちゃんは内緒話でもするように耳もとに口を寄せ、そっと囁いた。


「アルヴィス様に継承権はない。彼はね、悪女と呼ばれた第二皇妃の子どもなの」



 その昔、フロストヴェインには二人のお后がいた。

 一人は由緒正しい公爵家のご令嬢。非の打ちどころのない完璧な正妃だったが、なかなか子に恵まれず皇室は悩んでいた。

 そうなると当然「第二皇妃を」と推す声が反派閥から挙がる。そうして選ばれたのは、とある侯爵家の娘だった。黒い髪に紫の瞳が妖艶な側妃は、すぐさま身ごもり皇子を産み落とした。

 これでなんとか世継ぎは確保した。宮中がホッとしたのもつかの間、その皇子が3つになろうという頃合いで波風が立った。妊娠は難しいと言われた正妃が身ごもったのだ。産まれて来た子が皇女であればまだ良かったもの、生まれてきたのは皮肉にも皇子だった。


 側妃腹ではあるが第一皇子のアルヴィス。正妃から生まれたが第二皇子のレスノゥ。


 さて、どちらが皇位を継ぐのか。お手本のような跡継ぎ争いが皇宮に発生し、城にはピりついた空気が流れて不穏な気配が渦巻いてしまった。

 派閥の争いはますます溝を深くし、国のトップが真っ二つに割れてしまいそうになった――そんなある日、ついに事件が起きる。


「レスノゥ様が暗殺されかけたのよ」

「!」


 幸い、未遂で事なきを得たが、下手人として囚われた男は側妃の息のかかった者だった。

 正妃の子を亡き者にしようとした廉で側妃はすぐさま捕らえられ、監獄塔へ永久に幽閉されることになる。母を憐れんでか息子のアルヴィスも付いていき、家督争いもそこまでとなった。哀れな母子は世間から忘れ去られたまま時は過ぎていく……。


 ……ところが、皇子が13になったある日、すさまじい音を立てて監獄塔が内側から一気に凍り付いた。見張りが腰を抜かしていると、入り口の扉を開けて単身出て来たアルヴィスが血まみれになりながらこう告げたそうだ。


 ――母上は俺が始末をつけた。継承権は要らない、これからはレスノゥを支えるためにこの身を尽くすと父上に伝えてくれないか……。


 元より、第一皇子に罪は無かったこともあり、アルヴィスは城に戻ることを許された。魔術学園に3年通った後に監獄塔を研究所として開設。責任者になったのが1年ほど前だという。



「わたくしがお父さまから聞かされた昔の話はこのぐらい。驚いたでしょう? 世間では第二皇妃が引いたことになっているから」

「そう、だね……」


 ここまで話したシャロちゃんは、ぶるりと身を震わせてこう続けた。


「アルヴィス様は表面上はとてもにこやかで紳士なのだけど、底が見えないというか……わたくしはあの方が少し怖い時があるの……エングレース家は正妃派の筆頭だったから、思うところがあるのかしらね」


 すっかり青ざめているであろう私を見たシャロちゃんは、そっとこちらの手を取ると心配そうにこう言ってくれた。


「これでいい? わたくしが何か力になれること、あるかしら」

「ううん、ありがとう。十分だよ」

「そう……プリシラ」


 お礼を言って部屋に戻ろうとした時、後ろから呼び止められた。


「あなただから話したのよ、わたくしやレスノゥ様を悲しませるようなことは……しないでね」


 どこか不安そうな彼女に何度か瞬く。私がシャロちゃんやレスノゥ様を悲しませる?

 握りしめた拳を突き出すように構えた私は、力強く口の端を上げて笑った。


「うん、それだけは絶対にしない。約束する!」

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