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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第22話

 率直な問いかけに、それが先ほどの実技授業の事だと理解する。そう尋ねた彼女の顔はどこか強ばっていて、なんだか混乱しているようだった。どうしてと問われてあの時の事を思い出そうとするのだけど、明確な言葉には出来そうもなかった。頬を掻きながら苦笑を浮かべる。


「えぇっと、理由を聞かれると困るんですけど……あの時はなんか、気づいたら身体が勝手に動いてました」

「勝手に、って。そんなわけないでしょう、わたくしはあなたにとって目障りな存在だったはずよ」


 確かに、呼び出して嫌味を言われたりはしたけど、あれは不用意にレスノゥ殿下に近づいた私に非があるわけだし、真っ当な忠告だったと思うんだけどな? そうだ、考えるより先に身体が動いていたって、すごくシンプルな話じゃない。

 ストンと落ちて来た答えを手にした私は、それをそのまま目の前の彼女に向かって笑いながら差し出した。



「関係ないですよ、駆け引きとかそんなの抜きに、目の前で困ってる人が居たから助けただけ。それだけです」



「……」


 シャーロット様は、卵でも丸のみしたみたいに目を見開いて固まってしまう。ふと思い出した私はいい機会だと謝る事にした。


「そうだ、ずっと謝りたかったんです。私、本当にレスノゥ皇子に下心とかありません。うちのタマ――あ、ペットの猫の事なんですけど、あの子を気に入って下さったので会っていただけであって……不快にさせてしまったのならごめんなさい。今後は気を付けます」


 そう言ってペコっと頭を下げると、彼女は面食らったように一歩引き、自分の身体を抱えるように腕を回した。しばらく黙りこくっていたのだけど、やがて視線を窓の外に移してボソボソと喋りだした。


「……。いえ、こちらも過剰反応すぎたかもしれないわ。確かに皇子は動物が好きでいらっしゃるから……。えっと……その……」


 消え入りそうな言葉に首を傾げる。次の言葉を待っていると、突然彼女はバッと腰を逸らして高笑いを上げた。


「お、オホホホホ! どうやら本当に無知だっただけみたいね。今後は仲良くしてあげてもよろしくってよ!」

「仲良……く?」


 一度その言葉を繰り返した私は、パァァと自分の顔が輝いていくのを止められなかった。目の前の手を取り、キラキラとした瞳で一心に見つめる。


「あの、仲良くって、もしかしてお友達ってことでいい?」

「おともだっ……ンンッ! そ、そうね、庶民っぽいけどそう言い換えても差し支えないわ」


 思い切って尋ねてみると、頬を染めながらまんざらでもない様子。


 これは後から知った事なのだけど、あの取り巻き二人はどうも友達というよりは地位目当ての腰ぎんちゃくだったようだ。他のご令嬢もあまりに高貴な身分に委縮するものだから、学園に入って心置きなく話せる友人というのはこれまで居なかったみたい。


「わぁぁ、私、友だちって初めて。ねぇシャロちゃんって呼んでもいい?」


 友だちがいなかったのは、前世で病院暮らしだった私も同じだ。今世ではお姉さまが居たけど『女友達』は姉妹とはまた違った特別なのだ。憧れのスクールライフっぽい!

 そう意気込むとシャーロット様、もといシャロちゃんは得意げにこんな提案をしてきた。


「ふふん、仕方ないわね。あなたがどーしてもって言うなら、いずれ姉妹の契りを交わしてあげてもよろしくてよ」

「えっ、本当? 私ずっと末っ子だったから、妹ができるなんて嬉しい!」

「ん?」

「……え?」


 なんだか齟齬があるようで、お互いの頭の上に疑問符が浮かぶ。一瞬置いて彼女の言いたいことを察した私は、スッと手のひらを上げて先手を打った。


「あ、『お姉さま』は、もう十分間に合ってますんで大丈夫です」

「なんでよ! キィィ!」


 ***


「――と、いうわけでお友達になったんですよ。ビックリですよね」


 それから二日後、人目を盗んでアルヴィス様と落ち合った私は、指先を合わせながらルンルン気分で報告をしていた。

 あの和解をしてからというものの、それまでツンケンした態度だった彼女の態度はだいぶ柔らかくなった気がする。高飛車でプライドが高いところはそのままなんだけど、ぜんぶ照れ隠しだって分かってからは何だかほほ笑ましくてしょうがない。なんとなく我が家の最強ツンデレお母さまを思い出させて、懐かしい気分になる。


「座学の授業でも隣からコッソリ教えてくれたり、この後一緒に勉強しようって約束もしてるんです。ランチも一緒に食べて、えへへー、すごく普通の青春っぽくないですか?」

「……。嬉しそうなとこ悪いけど、お前さぁ」


 ぽわぽわと花を飛ばす私を呆れたように眺めていた所長は、どこか気の毒そうに真実を突き付けて来た。


「本来の目的忘れてないか? 敵の総大将の娘だろ、あれ」

「……」


 はたと気づいた私は、自分の顔面からサァァーと血の気が引いていく音を聞いた気がした。

 そ、そういえばそうだ……。私はスパイで、学園側のコンテスト出品傾向を探るためにここに来たのだ。あんなに友達になれて嬉しそうだったシャロちゃんを騙してることになる……?


「いやでもっ、シャロちゃんを味方に付ければお父さんの学園長ももしかしたら説得して貰えるんじゃ!?」

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