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第2話

 たとえ物語のシナリオだとしても、こんなの黙って見ていられるわけがない!


「おねーさま、お風呂にいきましょう。そんなに濡れては風邪をひいてしまいます」


 口もきけないほど固まっている両親を捨て置いて、私はセシルの手を引っ張る。戸惑うメイド達も叱り飛ばして動かし、俯いて一言も発しない彼女を綺麗にしていった。


「うっ、ひっく……」


 その最中、華奢な体がしゃくりあげる。どうしたのかと顔を上げると、振り返ったセシルは宝石みたいに綺麗な目から涙をぼろぼろと零した。


「わ、わたし、新しい奥様の邪魔になるからきっと追い出されるだろうって、メイドたちが言ってたわ。そう、なの?」


 うわわ、主人公だから当たり前なんだけど、ハイパー美少女すぎる。思わず見とれていた私は力強く手を取ってその不安を吹き飛ばしてみせた。


「そんなこと絶対にありえませんっ、あなたはこのおうちの正統な令嬢なのですから!」

「ほんと? このお家に居てもいいの? 邪魔じゃ、ない?」

「もちろん! これからは私たちが家族です!」


 安心させるように力いっぱいほほ笑んでみせる。するとセシルは涙目でも綺麗に笑ってくれた。


「嬉しい……ありがとう」


 その瞬間、私の心臓はズキューンと撃ち抜かれたかのようにときめいてしまった。は、はぁぁ!? こんな美少女を虐めるとか何の冗談? 原作のプリシラは目でも腐ってたのか? 


「い、いっぱい遊びましょう。おねーさま、ずっと仲良くしてください!!」

「ふふ、よろこんで。プリシラ可愛い……」


 こっちを愛おしそうに見つめて来るあなたこそ可愛いですけど!?

 自分が生き残りたい打算だけで助けたけど、いやもう、こんなんすべからく悪意から保護されるべき存在でしょ。護る! 私が全ての不幸から護って見せる!!


 そうよ、目指せ姉妹愛シスターフッド! ざまぁなんて無い世界にしてみせるわ!


 ***


 そう決意した私がその日の夜にしたのは、この世界の元になったであろう物語を思い出して書き留めることだった。とは言っても細かくは覚えていないから箇条書きみたいな物だけど。


「こんなものかしら」


 羊皮紙からペンを離し、これからの展開に目を通す。

 主人公のセシルは継母と義妹から嫌われ、虐げられながらも必死に耐え抜く。すると16の誕生日の夜に聖女の証である聖痕が手の甲に浮かび上がってくるのだ。けれどもその力は未熟で、婚約者となる当て馬王子からも蔑まれてしまう。そこに悪役義妹である私が付け入り、王子を寝取って偽聖女として成り代わってしまう、と。


(よし、一つずつ潰していこう! まずは家庭環境の改善からっ)


 拳を握りしめた私は、さっそく作戦を実行することにした。前妻の子をいびるのがこの世界の常識だとしても、そんなの外の世界からやってきた私には関係ないもの。



「おねーさまを大切にしないおとーさまなんかキラーイッ」


 翌日、お姉さまにべったり張り付いた私はツーンと顔を逸らしていた。以前の顔合わせでは懐いてくれた連れ子からの拒否に、お父さまは困ったようにしおしおとうなだれる。しばらくすると観念したようにこう言った。


「わかったよ、セシルにも一緒に新しいドレスを作ってあげよう」

「ホント? おとーさま大好き! プリシラ、おねえさまとおそろいがいい!」


 きゃるるんと、あざといポーズで無邪気に喜ぶ。幼女だし、この愛くるしい見た目を最大限利用しない手はないでしょ! ほら、お姉さまも。と促すと、彼女は感動したように胸元で手を握りしめて父に感謝を伝えた。


「ありがとうございますお父様。またこうして気にかけて頂けるなんて、夢みたいです……嬉しい……」

「セシル……」


 そのいじらしさにお父さまはハッとしたように目を見開く。前の奥さんのことを思い出してくれたんだろうか、その目には涙が光っていた。目頭を押さえながら彼は頷く。


「うん、うんうん。すまなかった、二人でお揃いのドレスを仕立てような。金に糸目はつけなくていい、その為に頑張るから」


 そうして出来上がってきたドレスを着た私たちはお互いをキャッキャと褒め称え合う。その様子を傍から見ていたお父さまは急にウッ……と、胸を押さえると俯いてしまった。お姉さまが慌てて駆け寄る。


「お父様!? どうなさったのですか?」

「仲良し姉妹、尊い……ワシめっちゃ仕事がんばる……」


 よし、これでお父様は良いだろう。同時進行でお母さま、部屋の隅から今のやりとりを面白くなさそうに見ていた彼女はフンと鼻を鳴らすと出て行ってしまった。私は慌ててその後を追う。


「おかーさま、昨日の話、考えていただけましたか?」

「さぁね、何のことかしら」


 そっけなく言う彼女に追いつく為、私はがんばって走る。たたた……と、回り込むと、両手を握りしめてキラキラと見上げた。


「おねーさまが素敵なレディになるための秘訣を聞きたいんですって。私も一緒に教えて頂きたいです!」

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お父様が百合沼に・・・もっと沈めようついでに作者さんも沈めたい(おいで百合沼
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