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【連載版】悪役義妹になりまして  作者: 紗雪ロカ


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第15話

 権力者の身勝手なやり方に声を失う私を見て、皇子は一度間を置く。厳しい表情のまま自分の首元をなぞるようにして指を走らせた。


「あいつらの首元についている輪を見たか?」


 そういえば、黒いローブを来た彼らはお揃いのチョーカーを着けていたような気がする。てっきりあれも制服(?)の一部なのかと思っていたけど……。


「奴らが一歩でもこの塔を出ようものなら、あれが容赦なく爆発する。俺が作って付けた」

「っ、どうして!」


 なんでそんな非道な物をと信じられない気持ちで見ると、目を眇めた皇子は厳しい表情を崩さずにこう続けた。


「それが、あいつらがここで研究を続けるための条件だからだ」

「……」

「俺がそこまでやって、なんとか塔内でのみ研究を許されている。その成果は貴族の手柄になり、世に出たところで平民の功績としては認められない。死ぬまでここで搾取される」

「そんなの……!」


 憤りが胸の内で大きくなっていく。それを見透かしたかのようにこちらを見据えたアルヴィス様は、こう告げる。


「プリシラ、俺がお前を呼んだのは、そんな状況をぶち壊して欲しいと思ったからだ」

「私に……? なんで?」


 ビックリして二度三度瞬く。本気で戸惑う私を見ていた皇子は、どこか乾いた笑いを浮かべながら傾いだ。


「無自覚か……。いいか? お前は独学で魔術を身に着けたと言っただろう。ウチから国外に出る魔術の本なんて、せいぜい『どういう理屈か』を記しただけの概要書に過ぎない。なのに、お前はそれを読んだだけで、ホウキで飛ぶだなんて離れ業を成し遂げている。空から飛び込んできた女を見た俺の衝撃が分かるか?」


 あ、あれはただ、ホウキで飛ぶ魔女のイメージがあっただけで……。あれ? そのぐらい、魔術大国なら普通にあるんじゃないの?


「まぎれもなく天才だよ。お前は」


 手放しで賞賛された私は、何だか照れくさくなってしまって縮こまる。真剣な面持ちのアルヴィス様はこう続けた。


「その才能を見込んで頼みがある。今から5か月後、オリジナルの魔術を発表する年に一度のコンテストが城である。そこに、『隣国からの特別枠』として出場して欲しい。たぶん舐めくさって嘲笑されるだろうが、そこで優勝すれば絶大なインパクトを与えられる。そこで初めて、この塔での協力あっての研究成果だということを明かすんだ」


 なるほど、在野の魔術師でもこれだけの物が作れるんだぞと主張すれば、国内の流れも変わるかもしれない。隣国の私は何も知らなかったふりをして彼らの有能さを無邪気にひけらかせば良いのだ。私には聖女の妹という後ろ盾もある。無下にはできないはずだ。


「突破口さえ作ってさえくれたら、そこからは俺が進める。貴族たちを説得し、このフロストヴェインを身分なんて関係なしに誰もが自由に魔術を学べる国にしてみせる」


 真剣な紫のまなざしを一心に向けられ、私は胸の鼓動が逸っていくのを感じていた。すごい……なにそれ、


(おもしろそう!)


 私がこれまでやってきた魔術は、お姉さまのサポートをコッソリとするため誰にも知られるわけにはいかなかった。勉強もほとんど手探りで――それを、仲間たちと一緒に研究して、状況打開するために戦えって?

 頬が紅潮していくのがわかる。悪役義妹の枠から外れて、私だってここから主人公になれるのかもしれない。

 そんなこちらの様子を見抜いたのだろう、フッと面白そうに口の端を上げたアルヴィス様は手を差し出してきた。


「力を貸してくれないか、プリシラ」


 考えるよりも先に身体が動いていた。不敵に笑い返した私は、振り切った手を叩きつけるように相手の手のひらに合わせる。とてもじゃないけど女性向け小説とは思えないようなバシーン! という熱い音が部屋に響いた。


「もちろんです! そうだ、制度を改めた暁には、私の国からの留学生も受け入れてくれますか?」

「あぁ、二国間の懸け橋になる、だったな」


 なんだかワクワクして胸が躍る。私がこの国で、未来を変えていくんだ!

 待っててお姉さま。プリシラはスーパービッグな有名人になって凱旋して見せるから。


「よーし、がんばるぞー!」


 ***


 パタンと部屋の扉を閉めて退出した銀髪の青年は、隣国から連れてきた少女がやる気十分に叫ぶのを聞いてクックックと心の中でほくそ笑んだ。


(まんまと乗せられて単純なことだ)


 お望み通りヒロインに仕立て上げてやろう。あの派手な外見で引き立ててくれれば、こちらとしても事を進めやすい。

 あいにくとアルヴィス・シュニーは国の未来なんかどうでもよかった。監獄塔を救うとかそういう御大層な名目を掲げてみせたのは、そう言えば見るからにお人好しなプリシラなら簡単に乗ってくるだろうと推測していたからだ。この塔の住人も利用価値があるから目を掛けてやっているだけ。魔術の教育環境なんてどうでもいい。せいぜい平民が力を付けて、国に下克上の波乱を起こしてくれるなら万々歳だ。


 そう……アルヴィス・シュニーはこの国に怨みを抱いていた。彼の『高位貴族たちの鼻を明かしてやりたい』という企みと、彼女の希望に満ち溢れた夢がたまたま合致していただけ。せいぜいその正義感とガワを利用させて貰おう。


(しかし、色方面での懐柔は期待できなさそうだったな)


 アルヴィス・シュニーは自分の見目の良さを自覚している。当初は、自分に惚れさせて言いなりにするつもりだったのだが、どうにもあの少女は自分を恋愛対象として認識していないようだ。結果的に引き入れることに成功はしたのでそれはいいが……なぜかモヤッとする。


(……まぁ、利用する以上は、あいつらが良いように便宜は払ってやるか)


 ため息をついた彼は、頭を掻きながら一つ下の自分の部屋へと向かった。この計画が上手く行けば、彼女は多くの名誉と名声を得て祖国に帰ることになる。塔の住人たちは解放され、才能を認められるだろう。そして自分は復讐を果たせる。彼女の言葉を借りるならWIN-WIN-WINというやつか。


(曲がりなりにも、俺はこの研究所の所長(笑)だからな)


 そう皮肉気に笑みを浮かべながら、手の中に光の魔術を構築する。『きこえたよ』の再現が闇に溶けていくのを見送って、どこか複雑そうに呟いた。


「まったく、奇妙な巡り合わせもあったものだ」



 アルヴィス・シュニーはまだ知らない。

 色んな意味で規格外な彼女に振り回されることになろうとは、露ほども思っていなかったのである。

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