第12話
前回のアンケートありがとうございます。
参考にしながらぼちぼち更新再開と行きたいと思います。
よろしくお願いします!
馬車で揺られること約半日、朝に出発して帝国の首都に着いたのはお昼を少し過ぎた頃だった。
見覚えのあるお城の前に、前回は暗くてよく見えなかった巨大な建物がドカンと立っている。馬車から身を乗り出した私はそれを輝く瞳で見上げた。
「わぁぁ、あれが有名な『フロストヴェイン魔術学園』! 今日からあそこで学べるんですね!」
研究所は全体的に白を基調とした横長の建物で、4階建てのガラス張りが美しい宮殿のような見た目だ。ちょうどお昼時なのか、お揃いの白い制服を着た少年少女たちが、噴水付きの前庭に出てきている。いいなぁいいなぁ、私前世で学校にほとんど通えなかったしスクールライフって物に憧れがあるんだよね。オルコット家は家庭教師だったし。
「え、あれ?」
ところが私たちを乗せた馬車はその建物を素通りし、お城をグルっと回り込むように移動していく。どういうこと? と、皇子の方を振り向くと、目があった彼はニヤリと笑って手を掲げた。
「あぁ、今のは俺の弟皇子が所長の学園。俺が所長で、お前が所属する研究所は『あっち』」
その指さす先に見えてきた建物を見た私はカクンと口を開ける。ツタとか苔とか生えまくった今にも崩れそうなオンボロの塔が、城壁ギリギリの位置に建てられているのだ。なんかカラスとかギャアギャア飛び交ってるし、ホラー映画みたいに霞掛かってるあそこが、私の学び舎……?
「詐欺だー!!」
「失礼な、一言も国営の方に入れるとは言ってないだろうが」
「騙してる自覚はあるのかこの悪魔!」
うっかり飛び出た罵倒も介さず、アルヴィス皇子(腹黒)は停車した馬車から優雅に降りる。ふざけているのか、ふり返ると乙女ゲーのスチルみたいなキラキラした絵面でエスコートの手をこちらに差し出した。
「そうさプリシラ、俺はお前を手に入れる為なら誰に嫌われても構わない……」
「本人を騙すのはもうヤンデレの域なのよ、訴えてやるっ」
死んでもその手を借りるものかと憤慨しながら飛び降りる。クツクツと面白そうに笑いをかみ殺した彼を睨みつけてから、私たちは歩き出した。塔の周辺には民家もなく、不気味な植物が生える庭園などを横目に進んでいく。
「まぁ、お前にはこっちの方が合ってると思うけどな。弟の方は品行方正なエリート貴族だけを集めているが、俺のところは実力主義だ。自己責任、何でもあり、好きなことを好きなだけがモットー」
「ひぃっ!?」
塔の入り口に手をかけた瞬間、2つ上の階の窓が凄まじい音を立てて内側から吹き飛んだ。ガラス片がバラバラと落ちてきて黒い煙が濛々と吹き出している。
「……まぁ、最近はやりすぎて睨まれてるけど」
「今からでもあっちに転入って出来ません?」
ええい、ままよ! こんなでも中は予想外に綺麗……だったら良かったなぁ……どう見ても汚部屋ですありがとうございます。
地上階は中央に20人くらい座れそうな巨大テーブルが置いてあるんだけど、あちこちにカラフルな謎の液体が飛び散ってるし、うず高く積まれた本がそこら中にタワーinタワーを形成してる。なんかヘドロみたいなのが床にこびりついてるしぃ……。
円形の塔の内部は、地上から2・3・4階が吹き抜けになっているようで、各階の四方に扉が付いている。おそるおそるくっついて進んでいくと、皇子が上階に向かって呼びかけた。
「みんな、ちょっといいか」
しばらくすると、その内のいくつかがガチャリと開いて中の住人が顔を出す。だけど皆一様に黒いローブを目深にかぶっていて私はギョッとしてしまう。
「今日から新しく所属することになった新人だ」
「ぷ、プリシラです。よろしくお願いします!」
「……」「……」「…………」
緊張しながら挨拶する私に視線が突き刺さる。しばらくすると皆ササッと引っ込んでしまった。な、なんなのぉ?
「悪いな、みんな魔素と喋り出すような変人ばかりなんだ」
「えぇぇ……」
困惑しながら置いていたトランクを持ち上げた私は、ぬちょぉと何かの粘液が糸を引くのを見てぞわわと総毛立つ。これからここで生活しろってこと? この、豚小屋の方がなんぼかマシな腐海の海で……?
「ぬ……」
「ぬ?」
「布! ありったけの布と、ホウキと! バケツと水を下さい!! 掃除させてぇ!!」
その後、城に報告に行くと逃げたアホ……アルヴィス皇子から道具一式を受け取り、私は怒りの清掃をしていた。
(まったくもうっ、私はっ、メイドとしてっ、来たんじゃなぁぁいっ!!)
心の中で叫びながら、黒いベトベトにモップを叩きつける。とりあえず散乱してる本を寄せて、ホウキで掃いて、水拭きしてるんだけど、とてもじゃないけど手に負えない。がーっ!
泣きそうになりながら一息ついたその時、ふと視線を感じて顔を上げる。あんまり階下でバタバタ音を立てていたからか、研究員の何人かが階段の手すりの影から3人、こちらの様子を伺っているようだ。
あのねぇ、汚してるのはあなた達でしょ? よくこんな掃きだめで生活できますね――と、文句を言いかけるのだけど踏みとどまる。いけないいけない。私はあくまで後輩で今日入ったばかりの新人。かわいく、謙虚に……そうだ!




