第八話 Prisoner Of Love 彼女たちの未来
芸能プロダクションの方針で『絵葉リリス』は歌ダ41を脱退してソロ活動をするこに決まった。
リリスの圧倒的な歌唱力・表現力はソロ活動のほうが売れると考えたらしい。
それに最近のリリスは、グループ内で浮いた存在になっている。芸能プロダクションの、この判断は正解なのだろう。
そして、このことは、生放送の歌番組でリリス本人の口から、
「この度、私事ではありますが、絵葉リリスは『歌ダ41』を卒業するとになりました」
と、卒業の発表をした。例のネオ・ドームのコンサートが卒業公演となるようだ。
その歌番組の収録が終わり、テレビ局の通路で警備をしていた俺の前で、リリスは足を止める。リリスは俺に向かって、
「今までグループで、やってきたのに、独りになるなんて不安だな」
「君なら大丈夫だよ」
通路の壁にもたれ掛かった俺は、そう応えた。それは、お世辞ではなくて本心だ。
「本当に、そう思いますか」
十六歳の少女であるリリスは、不安な表情のままだったが、
「君なら大丈夫。俺は芸能界のことは、あまり知らないが、色々な世界を見てきている。その俺が大丈夫だと思うのだから」
この俺の言葉を聞いて安心したのか、ようやくニッコリと笑って、リリスは元気な足取りで歩き出した。
こうして、絵葉リリスというトップメンバーが抜ける歌ダ41だが、もう一人のトップである『山上美陽』にも、大変な事態が起こった。
美陽は、妻子ある中年司会者との不倫スキャンダルを、週刊誌にスッパ抜かれたのだ。
美陽は、例の国際犯罪組織の事件で初恋の彼が殺害され、心に隙間ができていたのだろう。その隙間をスケベな中年司会者に付け込まれたに違いない。
だが世間は、このスキャンダルで大騒ぎとなり、さらに美陽の過激なファンの一人は、その司会者の出演番組に、突然、乱入して、
「よくも、オレのミヨミヨを!」
と、灯油をぶちまけ、放火事件を犯す(死人・けが人は出なかったのだが)
こうなってしまえば、今度は美陽に危害を加える輩が現れるのは、時間の問題だろう。
俺は情報屋を駆使して、危険なファンをあらいだし、片っ端から殺して廻った。
その夜も一人殺し、仕事の後、俺が居酒屋『甚兵衛』で飲んでいると、
「硝煙と血の匂いね」
と、後ろから夏平美雪刑事の声。彼女は俺のテーブルに相席して、
「何か、奢ってくれるかな」
「勤務中ですか、刑事さん」
「今夜は私、非番なのよね」
夏平刑事は焼酎のロックと焼き鳥を注文した後、小声で、
「今週だけで八人よね。ちょっと、やり過ぎじゃない」
「何の事でしょう。もしかして卑猥な話?」
「また、トボけて。以前、私を助けてくれたとしても、証拠を掴んだら、見逃せないからね」
「話の意味が、わかりません」
「また、そんなことばかり言って。あなたって、いったい何者なの?」
「だから、芸能プロダクションのバイトです」
そんな戯言を言いながら、この夜は遅くまで二人で飲んだ。
そして次の日も、俺は美陽の過激なファンを探し出して銃殺する。だが、
結局、山上美陽は芸能プロダクションとの契約を解除して、芸能界から引退してしまった。