第七話 traveling 天空に浮かぶ船
この時代、巨大な飛行船で夜空をクルージングしながら、歌手のショーを楽しむ『飛行船ディナーショー』が流行っていた。
とはいえ料金が高く、それは金持ちのためのエンターテイメントである。
その飛行船ディナーショーに、絵葉リリスが出演することが決まった。
「えっ、本当に。私がディナーショーに?」
と、リリス本人も驚いている。飛行船ディナーショーの客は富裕層で、ベテラン歌手が出演することが多い。
十六歳のアイドルである絵葉リリスが出演することは異例だ。やはり、その圧倒的な歌唱力が、この仕事を呼んだのだろう。
もちろん、飛行船ディナーショーでは大人数でのステージは不可能なため、歌ダ41のグループではなく、リリス一人のソロ出演だった。
そして俺も、この飛行船ディナーショーの警備のため、客に紛れて飛行船に乗ることになる。
飛行船ディーナショーの当日。夕暮れ時に巨大な飛行船は離陸した。今夜、この船はネオTO京の上空を遊覧する。
テーブルには豪華な食事と高級な酒が並び、斜め下に付いた窓から大都会の夜景を見下ろせた。
なんとも贅沢な世界だ。ステージには定刻通りに、絵葉リリスが登場して、
「皆さん、今晩は。今夜は一緒に楽しみましょう」
客席から拍手が沸き、
「では今夜は、この曲から歌います」
と、リリスが一曲目を歌い始めた時に、
俺のポケットの中でスマホがバイブレーションする。席を立ち、トイレで電話にでると、情報屋からだった。
「旦那、大変です」
「どうしたんだ?」
「情報によると、その飛行船に時雄が乗り込んでいるようなんです」
情報屋のいう『時雄』とは反政府組織のメンバーで、飛行船の爆破を得意とするテロリストだ。
「なんだと。それで奴の手口は?」
「飛行中の飛行船の上の部分に、爆発物を仕掛けるのが、いつものやり方ですぜ。時雄は爆破直前に落下傘で降下するんです」
「よし、わかった」
俺は急いで飛行船の乗務員をつかまえて、テロリストの時雄が乗り込んでいることを伝えた。
「な、何ですって、テロリストが!」
と、パニックになる乗務員を落ち着かせて、
「俺がなんとかする。飛行船の上部に上がるために、ハッチを開けてくれ」
そのハッチから、俺は船外に出て、船体のメンテナンス用のハシゴを登った。
上空は意外に風が強く、俺は飛ばされそうになりながら、ハシゴを強く握り、飛行船の上部を目指して登る。
高度は五百メートルほどか。眼下には大都会の夜景。風に煽られて、俺は、かなりの恐怖を感じたのだが、
ビビっている暇はない。飛行船の上部まで上がると、
俺から十メートルほどの距離に、時雄らしき人物が爆発物を仕掛けていた。
無言のまま、片手で大型のリボルバー拳銃を抜く俺。銃口を奴に向ける。
その時、奴も俺に気付き、頭を上げて、
「あっ!」
と、言ったが。
ドオォン!
銃弾が奴の頭を吹き飛ばした。
時雄の体は飛行船から滑り落ちて、宙を舞い、途中、落下傘がパッと開く。
そして煌めく夜景の中に降下していった。
開け放った船体のハッチの内側から、リリスの歌声が聴こえる。
「♪どちらまで行かれます。チョットそこまで」