第六話 Face My Fears 夏平美雪
女性刑事・夏平美雪は女優のような美人だ。今日も颯爽とした足取りで事件現場のコンビニに姿を現した。
彼女の姿を見て、新米っぽい男性刑事が、
「ご苦労さまです」
と、敬礼するのを、俺はビルの屋上に伏せて双眼鏡で覗いている。
夏平刑事は俺を逮捕しようと躍起になっているので、俺も可能な限り彼女を監視していた。
非合法ボディガードの俺は、アイドルグループ『歌ダ41』を守るために、過激なファンを撃ち殺して排除している。
今回はコンビニの駐輪場で男子高校生を撃ち殺した。
コイツは熱狂的な歌ダ41のファンだったが、モデルガンの改造拳銃を常に持ち歩いていたのだ。こんな奴は、何かやる前に殺したほうがいい。
俺には明確な正義はない。彼女たちを守ることだけが仕事である。その俺が放つのは倫理なき銃弾だ。
その翌日のことだが、歌ダ41のレコーディングスタジオの警備をしていると、夏平刑事が姿を現した。
「あなた、未成年が相手でも容赦がないのね」
「何の事ですか?」
「また、とぼけて」
このコントのような、やり取りは毎度のことだ。
「自首するなら、今のうちよ。いつか逮捕してやるから」
「逮捕って、俺は何もしてないですよ。バイトの俺は、毎日、雑用の仕事をしているだけです」
「あなたね、いつまでシラを切るつもりなの」
「刑事さん、冗談は止めて下さいよ」
「冗談だと、いいけどね、バイト君」
夏平刑事は、最後に俺をキッと睨んで、その日は帰った。
しかし、その夜、俺のスマホに情報屋からの電話が入る。
「あの姉さん、ハメられましたぜ」
あの姉さんとは夏平刑事のことだ。俺は情報屋にも彼女の情報収集を頼んでいた。
「どうした。何かあったのか?」
「姉さん、密輸組織の捜索をしてたんですが、警察内部に内通者がいたんですよ」
「それで、今、どうなっている?」
「倉庫街に誘い込まれようです。このままなら殺されますぜ」
俺はタクシーを拾い、倉庫街へと急いだ。
俺の使っている情報屋は、警察内部の情報にも精通している。彼は料金も高いが、それだけの価値のある存在だった。
倉庫街に到着すると、俺はタクシーを降りて、
「さて、何処にいるんだ」
徒歩で捜すと、夏平刑事が五人の男に囲まれているのを発見する。少し離れた場所から、物陰に隠れ、様子を覗う俺。
五人の男の一人は、あの新米刑事だ。奴が内通者なのだろう。夏平刑事は、その新米刑事を睨みつけ、
「あたな警官なのに、いったい何をしているの」
「先輩、俺は根っからの悪党でね」
新米刑事は、軽機関銃を夏平刑事に突きつけていた。
「殺すなら、殺しなさいよ」
夏平刑事は強気の姿勢を崩さないが、新米刑事は冷酷な薄笑いを浮かべながら、
「もったいないな、こんな美人を蜂の巣にするのは。本当にもったいない」
俺は物陰に隠れたまま、大型のリボルバー拳銃を構えて、狙いを定めた。
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
ドオォン!
五発。五人の男の頭が吹き飛ぶ。
突然のことに、驚いた様子の夏平刑事だったが、すぐに俺の仕業だと気づいたのか、右手を高く挙げて、
「ありがとう。バイト君!」
と、大きな声で、その右手を振った。